あわやまりあわやまり

詩

2018/01/22

「もうひとつの世界」

駅にある
パン屋の隣の
そのカフェは
突き当たりの壁一面が
鏡になっている
空間を広く見せるため
なのかもしれない

 

そのカフェにいると
鏡の向こうには
もうひとつの
違う世界があって
よいしょ
と入っていけば
向こうの世界に
入れそうな心持ちになる

 

向こうの世界のパン屋で
パンを買い
駅からバスに乗って
家に着くと
そこには
誰が待っているのだろうか

 

 

(c) Mari Awaya
「秋美」vol.28より

2018/01/10

「貝を焼く姉」

姉は「貝のくに」出身です
場所はどこにあるか分らないけれども
我が家で「貝のくに」出身なのは姉だけで
他は皆違うけれども
ついでに言うなら私は
「しいのくに」出身です

 

姉は「貝のくに」出身だけあって
しょっちゅう貝を焼きます
私が生まれてからずっと
そばにくっついては貝を焼いていました
にっこり笑いながら貝を焼く姉と
ちょっと嫌そうな顔の私

 

だけど姉が貝を焼くのは
楽しい時ばかりではなくて
父が病んでいる時
母が悲しんでいる時
私が苦しい時になおのこと
せっせせっせと貝を焼くのです

 

姉は家族や友人のために
貝を焼くのが好きなのです
貝を焼いて、それが
ぱかっぱかっと開くことが
姉の生き甲斐なのだと思います

 

姉は思うに
「貝のくに」出身者の中でも
優秀な方に入ると思います
それはつまり
貝を焼き過ぎということでもありますが
身近にこんなに優秀な「貝のくに」の人がいることを
最近になって私は
うれしく思えるようになりました

 

それと同時に
いままで焼いてくれた数々の貝のこと
本当にありがたく思います

 

あたたかいおせっかいをいつまでも
私たちの隣と
もうひとり増えた大切な人の隣で
どうか焼きつづけてください

 

 

(c) Mari Awaya

2018/01/03

「新年大オセロ」

まだ三が日だと言うのに
街へ行くと大勢の人がいた
駅前の広場には人だかりができていて
私は何事だろうかと
ひょこひょこ覗きに行ってみた

 

人の隙間から見えるのはおかしな光景だった
そこではオセロが行なわれていた
しかも特大のオセロだ
レストランのテラスにある
丸いテーブルの大きさくらいのコマでもって
白と黒、一つのコマを二三人がかりでひっくり返す
マスは白い石灰で書かれたようだが
皆が踏んでしまって、もうはっきりとは分からなくなっている
人だかりのまん中に少し高い台があって
その上に赤い旗を持って
ゲームの進行をしているような人がいる

 

しかし少しひいて見てみると
ゲームをしているように見えて
本当はなんの決まりもなく各々
裏にしたり表にしたりしているようにも見える
罵声をとばしたり喧嘩腰になっている人もいるが
テキパキと、まるでそれは仕事であるかのように
動いている人もいる

 

これは表裏がそれぞれ白と黒の駒を使って
マスの中でひっくり返したりしているから
てっきりオセロゲームだと思ったが
もしかすると別の何かなのかもしれない

 

私は近くにいた背の高い男の人に
これはどう言うわけですか
と訪ねた
すると男の人は、背が高い分背伸びなどせずに
ゆうゆうとオセロの方を見ていたのを
ちらっと私を見下ろして
どうにもこうにも
皆白黒はっきりつけたいんだよ
今年は新年からさ
と答えた

 

私はふうん、とうなずき
また人の隙間からオセロを見ていると
でもね、結局はさ
こうやって見ている方が楽だからさ
とその男の人が言って、最後ににっと笑った
その人は吸っていた煙草を地面でぐりっと消してから
またにっと笑いながらオセロを一瞥して
どこかへ行ってしまった

 

私はもうしばらくそこでオセロを見ていた
人だかりは入れ代わり立ち代わりして
当分そこにあった

 

 

(c) Mari Awaya

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