あわやまりあわやまり

詩

2017/12/29

「隠し場所」

カレンダーに隠れて
見えていない壁には
実は四角い穴があいています

 

わたしはそこへ
この一年の秘密を
すこしずつ隠していって
カレンダーをはずす頃に
一緒に捨ててしまうのです
積み重なった些細な秘密は
そのくらいで捨ててしまっていいでしょう

 

そうですね、それじゃあ
もっと大きくて重い秘密は
わたしのおへそにでも隠しましょう

 

 

(c) Mari Awaya
私家版詩集「帰り道」「わたし、ぐるり」より

2017/12/24

「人生」

ちょっと出かけてきますね
ちょっとの間ですからね

 

そうやってきた
この世界ですもの
何をおみやげにしましょうか

 

いえいえ、おみやげは
あとからついてくるものですね
このちょっとの間を
はしからはしまで
精一杯楽しんでゆきましょう

 

このちょっとの間を
私ひとり分、できる限りに

 

 

(c) Mari Awaya
私家版詩集「眠って眠って、春」より

2017/12/18

「ラッキーバス」

ちっぽけな常識にとらわれた
ちっぽけな悩みを
背中いっぱいにしょって
夕方の駅に辿り着いた
小銭しか入っていないお財布で
今できる一番の贅沢
たこやきを一箱買った

 

けれどもふと見ると
私の小さな幸せ
今日はラッキーバスが
ロータリーに停まっていた

 

やったやった
駆け足でバスに向かう
このバスの存在を
皆はあまり知らないようで
たいていいつも中はがらがら
しかもラッキーバスなのに
料金は他のと同じで二百十円

 

ラッキーバスは
ロータリーを後にして
人込みを抜けて山へと向かう
沈みかけた太陽を
追い掛けて追い掛けて
追い付いた所で見えたのは
たった一つの太陽が見せる
たった一回きりのさよならショー
濃い淡い青色と薄い水色
それに黄色の強いオレンジが
きれいに合わさった演出に
私の小さくちっぽけになりかけていた心は
少しだけ膨らんだ

 

世界はとても広いと言う事を
ちっぽけな私をつくり出したのは
ちっぽけな私の価値観だったと言う事を
身を以て知ったあの日々の事を
ひざの上にたこやきの温かさを感じながら
ほんの少し思い出せたよ

 

ラッキーバスは急な坂を上りきって
最後の乗客とまだ温かいたこやき一箱を
静かに降ろして夜の中に消えて行った

 

 

(c) Mari Awaya

2017/12/13

「蓋しか」

蓋をしよう
そうした方が
きっと楽に生きられる

 

全て不確かな上の確かなもの
薄い紙切れ一枚も
模様が透けるきれいな紙の束も
重いキーホルダーの付いた堅そうな鍵も
幼い二人を写した幸せ溢れる写真も
引き出しの中の素っ気ないラベルのフロッピーも
お菓子の空き箱に入れて土に埋めた手紙も
それからそれから
はかり知れないほどたくさんの人を魅了する大きな目も
私の中指の曲がった両の手も
あの子のすらりとした外反拇趾の長い足も
あの人の右下にほくろのある小さな口も

 

不確かな上の不確かなものは
この際どうでもよいのだけれど
やっぱり問題は確かなもので
それは私がそうと
決めつけているだけにすぎないのです
だけれどそれを不確かと
認めるのには弱すぎるので
決めつけてしまうのは
仕方のないこと
つらくないこと
更にはきっと楽なこと

 

不確かなものを確かなものと思い込んで
不確かな世界の中で
不確かな私は
今日も不確かに蓋をする

 

 

 

(c) Mari Awaya

2017/12/09

「浮かんで沈んで」

湯舟に浸かって
お腹を膨らませたり
しぼませたりして
浮かんで
沈んで
浮かんで
沈んで

 

私は少し
複雑な風船のよう

 

 

 

(c) Mari Awaya
「日々のしずく」より

ページの先頭へ

ページの先頭へ