あわやまりあわやまり

詩

2020/02/29

「私の立つところには私だけ」

自分のつらさが

苦しみが

分かってもらえていない

と思うとき

それも当然だ、と

割り切ることも

必要なのかもしれない

 

だって世の中に

本当の意味で

同じ立場の人なんて

いない

 

一見似ているようで

分かり合えそうだけれど

根っこが違ったり

根っこは同じだけれど

今吹いている風は違ったりする

 

そう思っても

どうしてか

やっぱりすこしでも

分かってもらいたい

と思ってしまうのは

弱さなのか

それとも

愛が欲しいだけなのか

 

 

 

(c) 2020 あわやまり

秋美vol.32より

2020/02/26

「忘れていたすき」

ずっとはいていなかった

スカートを出したら

そのプリーツから

ずっと前にすきだった人への

「すき」

がぽろんと落ちた

 

ひろって

窓を開けて

外に出してやる

 

もう飛べないのか

滑るように落ちて

とぼとぼと歩いて行った

 

 

 

(c) 2010 あわやまり

2020/02/23

「ほこりのきらめき」

あたたかな陽が差し込む

リビングのソファに

横になっていて

ふと目を開けると

陽の光りに照らされて

リビングのほこりたちが

キラキラきらめいていた

 

いつもほとんど気づかれない

小さな小さなほこりたちが

意思を持っているように

踊っているのだった

 

わたしがそこに

そっと手を触れると

ほこりたちは

静かに近づいてきて

優しく包み込むように

触れてくれるようだった

 

そこにわたしの大切な人が

本当にいて

まだそばにいるよって

教えてくれているようだった

 

その奇跡に

わたしは深く感謝した

 

 

 

(c) 2020 あわやまり

「秋美」vol.32より

2020/02/19

「水曜の睡魔」

水曜の夜は

なぜだか分からないけれど

八時くらいに眠くなる

そして眠ってしまう

 

もしかしたら水曜の夜には

知らない方がいい

なにかしらの事柄があって

(十時頃に悪魔の子どもが尋ねてくる、とか

可愛がっている近所の犬が狼に変身する、とか

部屋中にグリンピースがわいてくる、とか)

私はそれを第六感でキャッチして

自ら眠る体勢に

持っていっているのかもしれない

 

知らない方がいいことは

この世にいくつかある

 

 

 

(c) 2008 あわやまり

 

2020/02/16

「婚活アルパカ」

婚活パーティーに行ったら

アルパカが来ていた

 

アルパカは今人気があるから

出会えてつい嬉しくなった私は

声をかけた

 

珍しいですね、ここにいるなんて

するとアルパカは

 

ええ、わたしも出会いがなくて

と言う

 

でも、今人気でしょ?

と聞くと

 

それは女性にです

わたしもそろそろ本気に考えて

思い切って来たんです

こういうの、初めてですか?

と聞かれ

 

何度か来ているのについ

あ、初めてです

と返してしまう

 

き、緊張しますよね

とアルパカは言い

ブルブルッとする

 

そして会が始まって

目が回るほどたくさんの異性と

三分ずつ話して行く

メモはとれるが

どの人が◎をつけた人なのかすら

分からなくなってくる

 

隣のアルパカは

緊張しているのか

話すのがあまり得意でないのか

何を聞かれても

「あたたかいセーターが作れます」

または

「あたたかいマフラーが作れます」

ばかりを言っている

 

カップリングの時間が来ると

私同様

アルパカも疲れ切っていた

あのう、すみません

ティッシュ持ってますか?

と言うので

ティッシュをあげると

鼻と涙のようなものを拭いた

 

そして私もアルパカも

誰ともカップルにはなれなかった

 

会場を後にして

私が

何か甘いものでも

食べて行きません?

と言うと

アルパカは嬉しそうに

ええ、ぜひ

と言って

パカッパカッっと足踏みをした

 

カフェで

ふわふわしっとりのパンケーキを食べながら

アルパカの話を聞く

 

好みのタイプは

そうですね

健康な方がいいです

あと標高が高いところも大丈夫な方

わたしいつかは故郷に帰りたいので

と言う

 

でも、と

続けてアルパカは言った

でも、今日の感じでは

出会いと言うより

なんか、品物を選ぶみたいで

わたしにはちょっと合わなかったみたいです

ここであなたとお茶を出来て

本当によかったです

 

ええ、私もよかった

と言って二人で笑い合った

パンケーキの湯気も

カップの中の紅茶も

笑っているみたいだった

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

 

2020/02/11

「四十五分の穴」

愛するわんこが穴を掘って

その中に入っていった

そしてもう二度と戻って来なかった

その穴は

横にした時計の中心に私がいると考えて

四十五分の位置だとしよう

 

私はしばらくはずっと

四十五分の穴ばかり見て暮らした

ずっと見ていても穴は動くわけがなくて

更にはわんこが顔を出すこともない

もう戻ってこないことを

分かっているからこそ

悲しくて悲しくてどうしようもない

どうしようもないけど

どうにもならない

 

どうにもならないことって

世の中にはたくさんある

 

深いため息をひとつ

こんな気持ちはもうたくさん

思い切って四十五分でない方向を

向こうかとも思った

けれども他の方を向いたからといって

四十五分の穴がなくなるわけでは勿論ない

その穴は多分ずっと変わらない

そこに何か他のものが住み着くなんて事も

ありえない

だから例えば

今度は十五分にいる子猫に夢中になっても

四十五分の穴の存在は一生変わらない

 

唯一変わっていくのは

私が立っている位置なのだろう

そこは確実に、良くも悪くも止まらずに

ほんの少しずつ上へ上へと動いて行く

だから日に日に

少しずつだけれど

四十五分の穴が遠くなっていく

だんだん霞んで見えなくなる

ずっと見つめているのもつらい

だけど薄れていくのも悲しい

 

でも確実言えることは

わんこの掘った穴は絶対になくならない

それは

わんこがいた、ということも

絶対になくならないと言うこと

 

 

 

(c) 2020 あわやまり

2020/02/09

「シルシルとみかこさん」

黄緑の細い草の

小さいぼんぼんのような

ひげのシルシルが

道端で何匹かうろうろしている

最近よくシルシルを見かけるけれど

今年になって初めて出会った

 

どこいったの

どこいったの

どこいけばいいの

どこいけばいいの

どうしたらいいの

どうしたらいいの

 

みんなで反復する

 

どうしたの?

とかがんで話しかけたら

その中でも動きの遅い子が

 

どこいけばいいか

わからないの わからないの

 

迷子なの?

と聞くと

 

まいごって なあに?

と言うので

 

えっと

一緒にいた人とはぐれてしまったり

行く道が分からなくなることかな

 

まいごだ

ぼくたちまいご

ずっとついてきたひとが

どこにいるかわからない

そのひと

どこにいけばいいか わからない

どうすればいいか わからない

そういってた

 

じゃあ、その人も

迷子になっちゃったのかな

そう言うと

 

まいご どうすればいいの?

どうすれば いいの?

と聞くので

 

その人ってどんな人なの?

と聞くと

 

ミカコさん

いいにおい

おーえる

コンカツしてる

 

わたしは困ってしまって

 

そうか、どうしようね

とりあえずうちの庭に来る?

と聞くと

 

みかんのき ある?

と言うので

 

ないけど、みかんあるよ

と返すと

 

じゃあ いくいく

みんな このひと

みかんあるって

いこう いこう

 

そしてひげのシルシルたちは

ぞろぞろとわたしの庭にやって来た

ミカコさんがどこに行ったかは

分からないまま

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

→詩集「夜になると、ぽこぽこと」より

2020/02/08

「なにげないこと」

日常の

なにげないことを

ふっと話し合えたりするのは

結構、馬鹿にならない

それがあるだけで

心が救われたりするのだから

 

だから逆に

それがないと

致命傷ってわけでもないのだけど

息が少し苦しいような感じになる

死ぬほど

ではないんだけど

 

 

 

(c) 2020 あわやまり

2020/02/05

「穴とトマト」

こんな空虚ははじめてだ

穴でも空いたようだ

と思って見ると

ぽっかり胃を中心に

穴が空いている

 

そりゃ息も苦しいわけだ

もうだめだ

とポロリ涙を流して

横になる

 

しばらくすると

空いたはずの穴から

きゅる〜

と音がする

ああ、お腹だ

朝からなんにも食べてなかった

穴が空いているはずなのに

とんだ空虚で

とんだ腹減りだ

 

とりあえずなにか食べよう

母から送ってきたトマトにしよう

母はこんなときも

わたしを生かそうとしている

 

とりあえずトマト食べて

空虚は

その後だ

 

 

(c) 2010 あわやまり

2020/02/02

「噴水に住む妖精」

水の薄い膜を作って流れる

公園の噴水

晴れた日には

虹が見えることもある

 

その中に住んでいる妖精は

ちいさくて美しい

 

彼女は噴水の中から見る景色

ぼやけてよく見えない

でもなんだか

きれいに見えるものたちを

現実だと思っていて

噴水が止まって

そこから出て見る世界は

夢だと思っている

 

だから人間も

夢の中の生き物だと思っていて

いつもベンチで本を読んでいる彼のことも

逢えない人に恋をしてしまったのだと

思い込んで悲しんでいる

 

 

 

(c) 2011 あわやまり

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