あわやまりあわやまり

詩

2018/01/10

「貝を焼く姉」

姉は「貝のくに」出身です
場所はどこにあるか分らないけれども
我が家で「貝のくに」出身なのは姉だけで
他は皆違うけれども
ついでに言うなら私は
「しいのくに」出身です

 

姉は「貝のくに」出身だけあって
しょっちゅう貝を焼きます
私が生まれてからずっと
そばにくっついては貝を焼いていました
にっこり笑いながら貝を焼く姉と
ちょっと嫌そうな顔の私

 

だけど姉が貝を焼くのは
楽しい時ばかりではなくて
父が病んでいる時
母が悲しんでいる時
私が苦しい時になおのこと
せっせせっせと貝を焼くのです

 

姉は家族や友人のために
貝を焼くのが好きなのです
貝を焼いて、それが
ぱかっぱかっと開くことが
姉の生き甲斐なのだと思います

 

姉は思うに
「貝のくに」出身者の中でも
優秀な方に入ると思います
それはつまり
貝を焼き過ぎということでもありますが
身近にこんなに優秀な「貝のくに」の人がいることを
最近になって私は
うれしく思えるようになりました

 

それと同時に
いままで焼いてくれた数々の貝のこと
本当にありがたく思います

 

あたたかいおせっかいをいつまでも
私たちの隣と
もうひとり増えた大切な人の隣で
どうか焼きつづけてください

 

 

(c) Mari Awaya

2018/01/03

「新年大オセロ」

まだ三が日だと言うのに
街へ行くと大勢の人がいた
駅前の広場には人だかりができていて
私は何事だろうかと
ひょこひょこ覗きに行ってみた

 

人の隙間から見えるのはおかしな光景だった
そこではオセロが行なわれていた
しかも特大のオセロだ
レストランのテラスにある
丸いテーブルの大きさくらいのコマでもって
白と黒、一つのコマを二三人がかりでひっくり返す
マスは白い石灰で書かれたようだが
皆が踏んでしまって、もうはっきりとは分からなくなっている
人だかりのまん中に少し高い台があって
その上に赤い旗を持って
ゲームの進行をしているような人がいる

 

しかし少しひいて見てみると
ゲームをしているように見えて
本当はなんの決まりもなく各々
裏にしたり表にしたりしているようにも見える
罵声をとばしたり喧嘩腰になっている人もいるが
テキパキと、まるでそれは仕事であるかのように
動いている人もいる

 

これは表裏がそれぞれ白と黒の駒を使って
マスの中でひっくり返したりしているから
てっきりオセロゲームだと思ったが
もしかすると別の何かなのかもしれない

 

私は近くにいた背の高い男の人に
これはどう言うわけですか
と訪ねた
すると男の人は、背が高い分背伸びなどせずに
ゆうゆうとオセロの方を見ていたのを
ちらっと私を見下ろして
どうにもこうにも
皆白黒はっきりつけたいんだよ
今年は新年からさ
と答えた

 

私はふうん、とうなずき
また人の隙間からオセロを見ていると
でもね、結局はさ
こうやって見ている方が楽だからさ
とその男の人が言って、最後ににっと笑った
その人は吸っていた煙草を地面でぐりっと消してから
またにっと笑いながらオセロを一瞥して
どこかへ行ってしまった

 

私はもうしばらくそこでオセロを見ていた
人だかりは入れ代わり立ち代わりして
当分そこにあった

 

 

(c) Mari Awaya

2017/12/20

「おじぎ草」

友人がくれたおじぎ草をベランダに置いた
手作りの小さい器に植わっていて
なんともかわいい
撫でてやる度
しゃわしゃわ しゃわ
といって葉を閉じてしまうのもかわいい

 

ところが
夏の終わりに近づいても
おじぎ草は大きくなり続けた
あと少ししか大きくならない
と聞いていたので驚いた
大きな鉢に移しかえても
撫でてやると従順に
しゃわしゃわ しゃわ
と大きな葉を閉じる

 

そのうちに
朝起きて撫でてやると一緒に
しゃわしゃわ しゃわ
と閉じられる葉の中に入ってしまうようになった
初めのうちはそれでも数分すると中から出てきて
バナナだけ食べてからのろのろと仕事にいった
さらに日が経つと
葉っぱの中に入っていくのが日課になってしまった
もうずっと葉っぱの中で眠りたいと思い
入っている時間が日に日に長くなった
仕事にも遅刻して怒られることが増えていった

 

眠りたくて眠りたくて仕方がなかった
身体のいろんなところや
心のすみずみから
休もう、休もう
というメッセージがきていた
周囲の勧めもあり
楽しく生きていけるぞ
と思えるようになるまで
おじぎ草の中で眠ることにした

 

たくさん働かせた身体と
いろいろ悩ませた心も
ゆっくり眠りましょう
しゃわしゃわ しゃわしゃわ しゃわ
みなさん
ちょっとの間だけ
さようなら
きっとじきに
元気になります

 

 

(c) Mari Awaya
手製本「眠って眠って、春」より

2017/11/03

「黒い魚の予言」

電車の窓の外側に
黒っぽい魚がくっついていた

 

人もほとんど周りにいないので
わたしが車内からコンコンと
窓をたたくと

 

一生のうちに見られるかわからない
空の光る輪を見にきたのです
はい、海をずっと泳いで
今日は雨ですので
こうやって移動できます
ただ、間に合うかどうか
まだ南へ進まなくてはいけません
それに、わたしの目で
見られるかどうかが
はい、それが心配です
と魚は言った

 

そうか明日は
皆既日食なんですね
わたしだって
見られるかどうか
と言うと

 

あなたの指にはめている
光る輪は見えますよ
と返すので

 

わたし指輪なんてしてないですよ
なんにも付けていないし
と指を見る
確かに何もないのだ

 

いえ、見えますよ
光っていますよ
ああ、はい
先のことかもしれないです
今見えている星の輝きは
昔消えた星のものだと言いますが
太陽の光り輪のことが近くですので
先のことが見えたのかもしれないです
はい、多分ですけど

 

はあ、そうですか

 

ではここらへんで失礼を
と言って魚は
バンっと窓を蹴って
多摩川に飛び込んで行った

 

どの指に光っているのか
聞くのを忘れた

 

 

(c) Mari Awaya 2010
私家版「今日、隣にいたひと」より

2017/11/03

「井の頭線と宇宙人」

オレンジの宇宙人が
シルバーシートに座っている

 

目は六つもあるのに
「優先席」が読めないのか
おじいさんが前にいるけれど
席をゆずらない

 

口を大きく開けていて
全部で三十本くらいある歯が見える

 

いぃ~いぃぃ~いいぃ~
と聞いたことのないメロディーを
歌っている

 

生まれ星の歌なのか
星に帰りたいのか
六つの目に
涙をうかべて

 

 

(c) Mari Awaya 2009
手製本「不思議ないきもの」より

2017/11/03

「ぼんやりゾーン」

テルオくんが連絡もなしに
三十分待ち合わせに遅れてきた

 

でもトコトコと歩いてやってきて

 

やあごめん
うっかり「ぼんやりゾーン」に座っちゃって
と言う

 

「ぼんやりゾーン」って最近できた電車の?
あれどうなるの、座ると

 

テルオくんはポリッと頭をかいて

 

僕さ、ぼんやりするのなんて
どこでもできるからって
ちょっとバカにしてたんだよね
でも気がついたらそこに座っちゃってて
で我に返ったら終点だったの

 

へえ
なにが違うの、他の席と

 

いやあ、よくわかんないなあ
ほら、ぼんやりしてたから
今度座ってみなよ
わかるから

 

ふうん
じゃ、行こうか
とわたしが言って
駅の北口にあるカフェに向かう
歩きながら

 

しかし

 

とテルオくんは締めくくった

 

人生にはぼんやりするときが
たまには
ひつようだね

 

 

(c) Mari Awaya 2009
手製本「テルオくんとわたし」より

2017/11/03

「一年前のつらいこと」

夕暮れどき
雨戸を閉めようとしたら
天狗が持つような葉っぱの下に
あめあめこぞうが立っていた

 

あ、久しぶりだね
私が話しかけると

 

うん、また来たよ
この前のこと、まだつらい?
と聞く

 

私はふと考えてしまう
この前?
つらいこと?
そうだ
この子と前に会ったときは
つらいことを抱えていて
泣いてばかりいた
でもそれは 一年前のこと
今ではもう つらくない
あの痛みを懐かしく思うくらい

 

もうつらくないよ
時が流れるのって、すごいね
と私が言うと
あめあめこぞうはおかしな顔をして

 

そうかな すごいの?
よくわかんないけど
つらいのがたまっていくより
いいね
と言う

 

そして
またしばらく遊んでね
と言ってから
隣の庭に走って行った

 

きれいに咲いている
水色のあじさいが
わさわさっと揺れた

 

 

(c) Mari Awaya 2008
手製本「あわやまりのひとしずく」より

2017/11/03

「平日のオムライス屋」

本物か偽物か
はっきりさせたい
とわたしが言うとテルオくんは
へぇ、そうなんだ
とオムライスを口に入れてから言った

 

本物だと、どうなるわけ?
と言うので
本物だったら
胸張ってがんばって
生きていかれる
と答える

 

じゃ、偽物だったら?
そしたら
それでもがんばって
生きていかなきゃ

 

じゃあ別にはっきりさせなくても
いいんじゃない
それに
誰が決めるの
本物と偽物

 

どっかにいる誰か
本物がわかる人

 

それが誰か知ってるの?

 

知らないよ

 

じゃあ
はっきりさせようがないじゃない
ははは
とテルオくんは笑う

 

そうなんだけど

 

どっちでもさ
本物でも偽物でも
自分が思ったように
がんばって生きてれば
いいんじゃないの
仮にもしも
そういう判別があるとしても
もっと後から
ついてくるものかもしれないよ

 

わたしはオムライスの中にあるチーズを
フォークでのばしながら
そうなんだけどさ
とため息をつく

 

大丈夫
違う角度からみたら
みんな本物なんだから
そう信じてないと
生きていかれないんだから
ははは
とテルオくんは笑った

 

そして
でも僕はもし偽物でも
胸張って生きていくよ
と言って
もりもりサラダを食べた

 

 

(c) Mari Awaya 2008
手製本「あわやまりのひとしずく」「テルオくんとわたし」より

2017/11/03

「しみ」

カーディガンにこぼした
お好み焼きのソースのしみが
かばんの中でしゃべるので
うるさくてたまらない

 

はやくとって
はやくはやく
はやくとって
はやくはやく

 

私はたまりかねて
カーディガンをとりだして
トイレへ行って
しみをごしごし石鹸で洗った
しみは
ふー、きえていくぅー
きえますよー
と小さいこえで言った
すこし落ち着いて
席にもどって
友達とぺちゃぺちゃしゃべっていたら
私の中に最近できた黒いしみも
だんだん、ちょっとづつ
小さくなっているようだった

 

はやくはやく
消えてほしいとは思うけれど
これはもう
ほかのことに集中するか
時の流れにまかせるか
するしかない
そうしていたら、じきに
この類のしみなんて
消えているのだから

 

ほーら、みてな
消えちゃうんだから

 

 

(c) Mari Awaya 2007
私家版「ぽちぽち、晴れ」より

2017/11/03

「抜け殻部長」

抜け殻部長は今日も電話の取り違えをした
それから話し掛けてもなかなか反応がなかったり
渡す原稿を間違えたりもした
私がこの会社に来たのは二か月前だけれど
その時すでに抜け殻部長はここにいた

 

今日夕方過ぎ
帰り道が一緒の佐々木さんは
座れない電車の中で
本当にもう、いやになっちゃう
と愚痴をこぼした
抜け殻部長の下で働く人なので
色々と大変なことも多いらしい
私はあまり抜け殻部長のことを知らないので
はい、ふうん、と
うなずいているだけ

 

たばこばっかり吸いにいっちゃって
帰る時もすーっと音を立てずに帰っちゃうし
ほんとう、もう

 

はい、と私
電車がカーブでぎゅうんと揺れる

 

抜け殻部長の中身の方は今どうしているんですか
私は帰り道で初めての長い言葉を発する

 

しらない
どっかにいるでしょうけど
いいのよどこにいたって
こっちは抜け殻部長がしっかりしてくれれば

 

はい、と私
ぼうっと遠くを見つめて
煙草を吸う抜け殻部長が一瞬よぎる

 

電車が速度を落とす
キイキイキイキイ プシュー
じゃあお疲れさま
と佐々木さんは電車を降りていく

 

はい、お疲れさまでした

 

電車が動いてトンネルに入ると
私は窓に映る自分の顔を、じいっと見た

 

私の抜け殻は今頃どうしているだろうか
多分抜け殻部長のように
誰かに迷惑をかけたり
怒らせたりしているのかもしれない

 

私は目を、ぎゅうっとつぶった

 

キイキイキイキイ プシュー
背筋を伸ばしてホームへ降りる
今日の風は 少し甘い匂いがした

 

 

(c) Mari Awaya 2005
手製本「帰り道」私家版「今日、隣にいたひと」より

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