あわやまりあわやまり

詩

2020/02/05

「穴とトマト」

こんな空虚ははじめてだ

穴でも空いたようだ

と思って見ると

ぽっかり胃を中心に

穴が空いている

 

そりゃ息も苦しいわけだ

もうだめだ

とポロリ涙を流して

横になる

 

しばらくすると

空いたはずの穴から

きゅる〜

と音がする

ああ、お腹だ

朝からなんにも食べてなかった

穴が空いているはずなのに

とんだ空虚で

とんだ腹減りだ

 

とりあえずなにか食べよう

母から送ってきたトマトにしよう

母はこんなときも

わたしを生かそうとしている

 

とりあえずトマト食べて

空虚は

その後だ

 

 

(c) 2010 あわやまり

2019/12/20

「無条件のぬくもり」

ひとりぼっちで部屋にいて

小さな声で

言ってみる

 

おーい、だれかぁ

おーい、だれかぁ

 

それは母親か

恋人か

それとも

私の赤ん坊か

分からないけれど

私はだれかに

抱きしめて欲しいらしかった

赤ん坊なら

私が抱きしめることになるけれど

 

無条件の愛のような

そんなぬくもりを

欲していたのだと思う

それはもう簡単には

得られないのを分かっていて

 

 

(c) 2017 あわやまり

2017年春号「夢ぽけっと」より

2019/11/19

「サイダー」

手のひらから
腕から
顔から頭から
からだ全部から
炭酸が抜けていくように
私の中の
悲しみが
ふつふつふつ、と
放出される

それが終わっても
まだまだ悲しみは
泉のように
湧いてくる

それは時々
涙になって
私は気の抜けたサイダーみたいに
だらんと力の入らないまま
寒い部屋の中の
あたたかい布団の中で
動けないでいる

 

 

(c) 2018 あわやまり

2019/10/27

「海の色」

海の色の

まんまるい実を

ひとつだけつけた木があって

その実が光るものだから

みんなきれいねって眺めるけれど

あれはね

海の深さより深い

誰かの哀しみのサインなの

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

2019/10/04

「なく、鈴虫とわたし」

淋しくて

でも

どうしようもないとき

淋しさを

涙に変換できれば

すこしだけ

楽になる

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

詩集「ぼくはぼっちです」より

2018/05/16

「ため」

いきおいよく

とびだすため

ためはひつようだ

それがたとえ

ひとには

ぐうたら

のんだら

どっすり

しているように

みえても

 

ため

ばねの

いちばんちいさいから

いちばんおおきいまで

とべるように

できる

 

だからこうして

ぐうたら

のんだら

どっすり

しているのも

そのためさ

 

 

(c) Mari Awaya 2018

2017/12/09

「浮かんで沈んで」

湯舟に浸かって
お腹を膨らませたり
しぼませたりして
浮かんで
沈んで
浮かんで
沈んで

 

私は少し
複雑な風船のよう

 

 

 

(c) Mari Awaya
「日々のしずく」より

2017/11/29

「ほんのときどき」

布団を取り込む夕暮れのベランダで
日が沈みきるほんの少し前の学校の屋上で
果てしなく長い間の一瞬よりも少しだけ長く
永遠を感じたりする

 

 

 

(c) Mari Awaya

2017/11/21

「かたまり」

肩にかたまりが、いる
特に右のが、大きい
じっとしていて、動かない

 

かたまりはどこから来るか
色んなところからやって来る
上司の嫌味
同僚の愚痴
家族に嫌気
友人と比較
自分に落胆
未来に不安

 

テケテケテケとやって来て
ぴたっとくっつき
からだの一部になる
そこが自らの家であるように
頑として動かない

 

たたいたり
話しかけたり
するけれど
いっこうに動いてはくれない

 

痛くて重くて
わたしは泣いた
一人っきりの部屋で
わんわん泣いた

 

するとかたまりが
ひどく熱くなってきたので
そっと右の肩に手を当てると
かたまりじゃない何かが
こう伝えてきた

 

ユルメナ
ユルシナ
ナガシナ

 

わたしはその言葉を考えた
かたまりをさすりながら
いつもと違って
慈しみをもって
さすりながら

 

 

 

© Mari Awaya 2015

2017/11/09

「らくたん」

幾度
らくたんすれば
わたしは
らくたんしなくて
すむだろう

 

らくたんするのは
期待しているからだ
心というものは
知らないうちに
かすかな期待あるいは希望を
持ってしまう

 

パラパラ パラパラ
らくたんが落ちていく
バラバラ バラバラ
粉々になって
ヒラヒラ ヒラヒラ
そのうちに軽くなって
らっかんしてみられるように
なるかもしれない

 

 

 

© Mari Awaya
「みんなの詩集 夢ぽけっと2014秋号」より

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