あわやまりあわやまり

詩

2020/02/16

「婚活アルパカ」

婚活パーティーに行ったら

アルパカが来ていた

 

アルパカは今人気があるから

出会えてつい嬉しくなった私は

声をかけた

 

珍しいですね、ここにいるなんて

するとアルパカは

 

ええ、わたしも出会いがなくて

と言う

 

でも、今人気でしょ?

と聞くと

 

それは女性にです

わたしもそろそろ本気に考えて

思い切って来たんです

こういうの、初めてですか?

と聞かれ

 

何度か来ているのについ

あ、初めてです

と返してしまう

 

き、緊張しますよね

とアルパカは言い

ブルブルッとする

 

そして会が始まって

目が回るほどたくさんの異性と

三分ずつ話して行く

メモはとれるが

どの人が◎をつけた人なのかすら

分からなくなってくる

 

隣のアルパカは

緊張しているのか

話すのがあまり得意でないのか

何を聞かれても

「あたたかいセーターが作れます」

または

「あたたかいマフラーが作れます」

ばかりを言っている

 

カップリングの時間が来ると

私同様

アルパカも疲れ切っていた

あのう、すみません

ティッシュ持ってますか?

と言うので

ティッシュをあげると

鼻と涙のようなものを拭いた

 

そして私もアルパカも

誰ともカップルにはなれなかった

 

会場を後にして

私が

何か甘いものでも

食べて行きません?

と言うと

アルパカは嬉しそうに

ええ、ぜひ

と言って

パカッパカッっと足踏みをした

 

カフェで

ふわふわしっとりのパンケーキを食べながら

アルパカの話を聞く

 

好みのタイプは

そうですね

健康な方がいいです

あと標高が高いところも大丈夫な方

わたしいつかは故郷に帰りたいので

と言う

 

でも、と

続けてアルパカは言った

でも、今日の感じでは

出会いと言うより

なんか、品物を選ぶみたいで

わたしにはちょっと合わなかったみたいです

ここであなたとお茶を出来て

本当によかったです

 

ええ、私もよかった

と言って二人で笑い合った

パンケーキの湯気も

カップの中の紅茶も

笑っているみたいだった

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

 

2020/01/19

「リスのさみしさ積立て」

リスは蓄えておくのが得意だった

食料もストックはたくさんあって

トイレットペーパーやゴミ袋も

何ヶ月も持つほど家にある

 

リスは蓄えたものを

綺麗に収納するのも得意だった

そうしてあると安心する

けれど何年も前から

安心とは程遠い気持ちが

心にあるのに気がついていた

 

それが

淋しい

という感情だと分かった瞬間

なんだか少し安心したのだった

 

そんなとき

「さみしさ積立て」

を友人に勧められた

 

ほら「さみしい」をそのままにするの

嫌じゃない?

だから始めたの

積立てればそれが仮想通貨みたいになって

投資できるんだよ

 

リスはちょっとあやしいとは思ったが

どうせお金をかけるわけじゃないし

なにより蓄えることが好きなので

始めることにした

 

「さみしさ」は

契約時にもらう時計のようなもので測る

それが自動的に投資会社に送られて

毎月の「さみしい度」の数値が出る

他のひとと比べたことがないので

自分の「さみしい度」が多いのかどうか

リスには分からなかった

でも毎月貯められていく「さみしさ」が

何かいいものに変わればと期待していた

 

けれどしばらくして

「さみしさ積立て」が違法だとニュースになった

結局詐欺みたいなことだった

最初に借りた「さみしい度」を測る時計を

投資に切り替えるタイミングで

高額に買い取らせていたらしい

リスはその前だったから被害はなかった

 

でもなんだかやりきれない気持ちになった

 

淋しい気持ちを貯めたりなんかして

どうにかできるなんて

あるはずないのに

 

そんなとき田舎から小包が届いた

とうもろこしやお米が入っていて

手紙も入っていた

 

元気にしていますか?

ちゃんと食べていますか?

こないだりっちゃんの赤ちゃんに会いに行って来ました

あなたもいい年なのだから

結婚のこともちゃんと考えてね

母より

 

リスは静かに泣いた

誰もいないのに

誰にも聞こえないように

 

どうしていつも

こんなに淋しいんだろう

なんでもないふりをして

毎日生活をしているけれど

濃い霧のように

部屋に充満した不安に気がつくと

つらくて、たまらない

 

部屋にはちゃんと

必要なものはあるのに

ちゃんと

あるのに

自分には

なにもない

 

ベランダのドアのガラス越しに

ひどく晴れた空が見えた

今日もなんにもないのに

もったいない気さえした

 

 

 

(c) 2019 あわやまり

 

詩集「記憶クッキー」はこちらから→

2019/12/24

「クリスマスのカピパラ」

カピバラは片想いをしていた

少し年上の先輩は

職場が同じだし

今はただ見ているだけで幸せだった

 

少し前に人気を博したカピパラも

最近はさほどでもない

まだ学生だった頃は

カピバラだというだけでモテた

彼氏もいたけれど

元々おとなし性格で

一人でいるのが好きなので

あまり長くは続かなかった

 

それに

スキンシップをとるようになると

どの彼氏も言うのが

きみ、見かけより毛が固いんだね

と言うことで

それがカピバラのコンプレックスになった

確かにカピバラの毛は

うさぎのそれよりも固いらしかった

でもそんなこと

カピバラのせいではない

撫でていて気持ちよくない

と言うのが最もだとしても

 

そんなわけで

カピバラは片想い中の先輩に

毛を触られないように気をつけた

片想いの間だけでも

夢をみていたいのだ

先輩は時々

後輩の女の子(自分と同期だ)の頭を

ポンポンとすることがある

あれをやって欲しい気は満々だが

やはり毛が心配だった

 

年末の忘年会で

先輩と同じテーブルになった

いつも口数のすくないカピバラだが

恥ずかしくてもっとしゃべらなくなる

あの同期の女の子も同じテーブルだった

話はクリスマスも目前

みんなの予定は?という話だった

先輩は

僕は気になる子と

イルミネーション見に行くんだ

と言った

そのとき同期の女の子が

恥ずかしそうに笑ったのには気がつかず

盛り上げ役の男の子が

えー、まじっすか

誰と行くんですか〜

どんな子タイプなんですか?

と聞くと先輩は

えっと、誘うのはまだなんだけど

ほぼほぼね

やわらかい感じの子だよ

そう言われて

カピバラは敏感に反応した

 

やわらかい感じ

私だって心はやわらかだわ

自分に質問が回って来た時

動揺もしていたからか

ええ、今年も彼と温泉に

なんて言ってしまったカピバラ

 

社内のうわさ話で

先輩と同期の女の子が付き合っていると

耳にするのは間もなくだった

 

クリスマス

カピバラは月一のご褒美として行く

温泉施設に来ていた

ここで一ヶ月の疲れと

失恋の痛みを洗い流すのだ

温泉につかり

美味しいものを食べ

温泉につかり

甘いものを食べ

夜景をみる

 

施設の浴衣をまとい

夜景を見ながら

来年は有言実行

好きな人と一緒にイルミネーションを見るぞと

心に決めたカピバラだった

 

 

 

(c) 2016 あわやまり

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