あわやまりあわやまり

詩

2024/03/06

湿布の角

湿布の角は
丸い方が
いい

 

湿布を半分に切って
貼ると
どうも
その切った方の
角が四角くて
剥がれやすい

 

角を
丸くしておく
ということには
大いに意味がある

 

角を丸くしておいた方が

いいのは

湿布だけでなく

いろんなものも

そうかもしれない

 

例えば

心の角を

ちょっと丸くしておいたら

なんとなく

生きやすくなりそうな

気がする

 

 

(c) 2024 あわやまり

「秋美  vol.36」より

2022/02/02

「ずっしり眠る」

見つからない

そう言えば

最近

見かけていない

 

詩をファイルに

綴じる時に使う

最近は

年に一度くらい

ファイルに詩が

あふれそうになってから

穴を開ける

穴あけパンチ

 

それだけにしか

使わなくなった

 

昭和からうちにいる

穴あけパンチは

ひねくれて

あの

ずっしりとした

冷たい身体を

どこかに

隠したのかもしれない

 

なければ

ないで

困るのであろう

 

けれど

そんなことも忘れて

ずっしりと

眠り込んでいるのかもしれない

 

去年開けた穴の

丸い小さな紙きれを

すこしだけ

お腹に抱えながら
 
 
(c) 2022 あわやまり

2021/08/16

「傘」

仕事の帰り
持ってきた大きな傘を
今日一度も
開かなかったことに
気がついた

 

無意識に持っていたから
持っているのも
忘れていたほど

 

けれど
忘れて帰ってこなかったのは
その傘が大事だからだ
この大きな傘は
ちょうどよく大きくて
とても使いやすい

 

ずっと大事なんだけど
まだひらいていない
持っているのも
忘れそうな
わたしの中にある
一本の傘が
すこし
震えたようだった

 

 

(c) Mari Awaya 2021

2021/06/06

「煙の言葉」

お線香を炊いたら
煙の様が美しくて
つい
見とれる
 
す〜と曲線を描いたり
くるくるっとなったり
もしゃもしゃっとなったり
なんだか
誰かの声を
表しているよう
 
もう
ここにいない人が
なにか
一生懸命
話しかけてくれているように

 
 

(c) 2021 あわやまり

2021/06/02

「鼻うがい」

ひとかけらの
どよんとしたものが
心に居座っているとき
わたしは
鼻うがいをする

鼻うがいは
はっきり言って
上手く出来ない

左の鼻の穴から水を入れても
右の穴から出てくることはなく
結果
ブシューという感じで
入れた方の穴から
吹き出される

それがいいのだ

それを何回も繰り返すと
だんだん
可笑しくなってくるし
ひとかけらの
どよんとしたものも
一緒に
出ていったような気になる

だから
鼻うがいは
ずっと上手くならない方がいい

 

 

 

(c) 2021 あわやまり

2021/01/05

「新年の1」

紙に印刷してあった

明朝体の1が

トコトコと歩き出して

どこへ行くのかと思ったら

その飛び出た1の先っぽで

わたしの「やりたいことスイッチ」を

押したのだった

 

ああよかった

この1がゴシック体じゃなくて

ああよかった

この1が「やりたいことスイッチ」の場所を

知っていて

 

そしてわたしはスタートすることが出来る

1を忘れずに

1つずつ

 

 

 

(c) 2021 あわやまり

2020/09/05

「地下からの美しいメロディ」

お風呂に浸かって
じーーーっとしていると
どこからか
軽やかなメロディが聞こえる

高い調子で

コロコロ笑うように軽やかな

楽しそうなメロディ

 

よく聴いていると

それは水の音だった
しかも

下水を流れる水たちの

 

こうやって1日の終わりに
楽しいことがあった日も
つらいことがあった日も
肩も腰もバリバリな夜も

お風呂で涙する夜も

 

その身体や心までも

洗い流したお湯たちは

流されて行きながら
あんなに楽しげで軽やかな
メロディを奏でている

 

その音色を
身体の芯があたたまるまで
聴いていた雨の夜

 

 

(c) 2020 あわやまり

2020/08/13

「リアルタイム」

今日の夕暮れの空は

この一度だけ

再放送はない

 

その瞬間

いっしょに空を見られたなら

それはどんな縁だか

分からないけれど

素晴らしいひとときを

共有したことになる

 

それは一度だけ

リアルタイムでないと見られない

 

 

 

(c) 2020 あわやまり

2020/07/15

「私からの電話」

わたしが

選ばなかった道にいる
私から
ほんの時々
電話がくる

 

それは呼び出し音だけだったり
がんばって!の

一言だったりする

 

その電話が
怖いものだとは全然思わない

 

選ばなかった道にいる私は

そっちで正しかったよ、とか

こっちの方がよかったのに、とか

言うわけでもなく

ただ

今のわたしを応援してくれている

 

そんな気さえするような

気まぐれで

あたたかで

一番信じられるエール

 

 

(c) 2020 あわやまり

2020/07/01

「カラカリホロリ」

電車が激しくゆれると

 

カラカリ(ホロリ)

 

と音がした

 

わたしのすぐ近くのようだけれど

見渡してもわからない

 

また激しく電車がゆれる

 

カラカリ(ホロリ)

 

わたしの中から聞こえたようだった

こころか

あたまか

いぶくろか

しきゅうか

分からないけれど

 

 

 

(c) 2010 あわやまり

詩集「今日、隣にいたひと」より

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