あわやまりあわやまり

詩

2020/01/13

「信号待ち」

信号待ちのとき

 

動いているのかな

とテルオくんは空を見て言う

 

なにが?

 

あれだよ

あの赤いの

 

ビルの上に大きな赤いクレーンがある

よく見ても

動いているかはわからない

 

わからないね

大きいからね

 

そうだね

わかんないね

とテルオくん

 

信号は赤のまま

だんだん待つ人が増える

 

ぼくらは動いているのかな

 

今は止まってるじゃない

と少し笑ってわたし

 

そうじゃなくて

ぼくらが動いているのか

なにかもっと大きなものの中にいて

それが動いているのか

 

う〜ん

みんなも動いていて

それが全体として大きく

動いているんじゃないの

 

そうかなぁ

ぼくの意志でなく

流れの中にただいるような

感じなのかもしれないよ

 

ピン

信号が青になる

 

さ、まずは渡ろう

少なくとも今は

動いている、んじゃない?

 

とわたしがテルオくんの

背中をポンとたたくと

 

はは、ま、そうだね

とポリッと指先で頭をかいて

行こう

とテルオくんも歩きだした

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

2019/11/27

「ぼんやりゾーン」

テルオくんが連絡もなしに

三十分待ち合わせに遅れてきた

 

でもトコトコと歩いてやってきて

 

やあごめん

うっかり「ぼんやりゾーン」に座っちゃって

と言う

 

「ぼんやりゾーン」って最近できた電車の?

あれどうなるの、座ると

 

テルオくんはポリッと頭をかいて

 

僕さ、ぼんやりするのなんて

どこでもできるからって

ちょっとバカにしてたんだよね

でも気がついたらそこに座っちゃってて

で我に返ったら終点だったの

バカにできないね

「ぼんやりゾーン」

 

へえ

なにが違うの、他の席と

 

いやあ、よくわかんないなあ

ほら、ぼんやりしてたから

今度座ってみなよ

わかるから

 

ふうん

じゃ、行こうか

とわたしが言って

駅の北口にあるカフェに向かう

歩きながら

 

しかし

 

とテルオくんは締めくくった

 

人生にはぼんやりするときが

たまには

ひつようだね

 

 

(c) 2009 あわやまり

2019/11/03

「抹茶ソフトあんみつ」

全然わかっていなかった

とわたしが言うと

 

何が?

とテルオくん

 

だからね

たとえば人の話を聞いていて

本当に真剣に聞いて

理解しようと思って

わかったと思うの

でも実際同じようなことが

自分におきてみて

はじめて

わかったって思ったの

ああ、わかってなかったんだって

 

テルオくんはクリームあんみつの

ソフトクリームを食べながら聞いている

 

あとね

人のことを

ちょっと会っただけで

ううん、前からの知り合いであっても

なんとなくわかったように思っちゃう

でも本当は

その人のほんのちょっとしか

わかっていないんだって

わかったの

 

わたしの抹茶ソフトあんみつは

汗を流しはじめた

するとテルオくんは

 

僕なんてさ

じぶんのこと

どれくらいわかっているか

それすら わかんないよ

みんなそうなんじゃない

 

わたしはやっと

抹茶ソフトを二口食べる

 

そうかなぁ

と落ち込むわたしに

 

わかっていなかった

ってわかったことがすごいと思うけど

たいていそんなこと気にしないでしょ

まあ、溶けちゃうから食べたら

とテルオくん

 

そうかなあ

そうなのかな

なんか今日はアイスって気分じゃなかった

普通のにしとけばよかったなぁ

とわたしが言うと

 

やった、じゃあ抹茶ちょうだい

とテルオくんはわたしのお皿を

自分の方へ持っていった

 

あれ、抹茶嫌いじゃないの?

と聞くと

 

そんなことないよ

あ、ほらね

きみはまだ僕のことを

わかっていない

にしし、と笑った

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

私家版詩集「テルオくんとわたし」より

2019/10/10

「平日のオムライス屋」

本物か偽物か

はっきりさせたい

とわたしが言うとテルオくんは

へぇ、そうなんだ

とオムライスを口に入れてから言った

 

本物だと、どうなるわけ?

と言うので

本物だったら

胸張ってがんばって

生きていかれる

と答える

 

じゃ、偽物だったら?

そしたら

それでもがんばって

生きていかなきゃ

 

じゃあ別にはっきりさせなくても

いいんじゃない

それに

誰が決めるの

本物と偽物

 

どっかにいる誰か

本物がわかる人

 

それが誰か知ってるの?

 

知らないよ

 

じゃあ

はっきりさせようがないじゃない

ははは

とテルオくんは笑う

 

そうなんだけど

 

どっちでもさ

本物でも偽物でも

自分が思ったように

がんばって生きてれば

いいんじゃないの

仮にもしも

そういう判別があるとしても

もっと後から

ついてくるものかもしれないよ

 

わたしはオムライスの中にあるチーズを

フォークでのばしながら

そうなんだけどさ

とため息をつく

 

大丈夫

違う角度からみたら

みんな本物なんだから

そう信じてないと

生きていかれないんだから

ははは

とテルオくんは笑った

 

そして

でも僕はもし偽物でも

胸張って生きていくよ

と言って

もりもりサラダを食べた

 

 

(c) 2019 あわやまり

私家版「テルオくんとわたし」より

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