あわやまりあわやまり

詩

2022/07/15

「温泉」

森の中にある温泉に来た
大浴場に行くと
誰もいなかった

わたしはひとりで
のびのびと
身体を洗い
頭を洗った
すると
どうも人の声がするような気がする
よく耳を澄ますと
温泉がしゃべっているのだ

あー、かけながしー
あー、ながれるわー
まだー、とどまるわー
まだー、ここにいられるわー
あらー、だれもいないわー
あらー、もったいないわー
ここにー、いられるだけー
ここにー、いっしょにー
いましょー
いましょー

頭を洗い終えて温泉に入ると
わー、あふれるー
わー、あふれるー
と言うので
失礼ね
とわたしが言うと

あー、おこってるー
あー、イライラー
かけながしー
ながしましょー
と言われる

おかしくなって
はいはいー、ありがとー
と笑うと
温泉も
コロコロコロコロー
ポコポコポコポコー
と笑っているようだった

 

 

(c) 2022 あわやまり
→詩集「線香花火のさきっぽ」より

2022/02/02

「ずっしり眠る」

見つからない

そう言えば

最近

見かけていない

 

詩をファイルに

綴じる時に使う

最近は

年に一度くらい

ファイルに詩が

あふれそうになってから

穴を開ける

穴あけパンチ

 

それだけにしか

使わなくなった

 

昭和からうちにいる

穴あけパンチは

ひねくれて

あの

ずっしりとした

冷たい身体を

どこかに

隠したのかもしれない

 

なければ

ないで

困るのであろう

 

けれど

そんなことも忘れて

ずっしりと

眠り込んでいるのかもしれない

 

去年開けた穴の

丸い小さな紙きれを

すこしだけ

お腹に抱えながら
 
 
(c) 2022 あわやまり

2021/11/08

「真夜中のハーブティー」


なかなか寝付けず
キッチンで
いつものように
用意をする
 
陶芸教室で作った
マグカップに
ハーブティーを入れて
蓋をする
蓋も自分で作ったものだ
 
するとしばらくして
小さな声が聞こえてくる
 
あなたの
今日
よかったこと
三つ言いましょうね
 
昼に食べたうどん
あれ、最高でしたね
 
夕焼けがものすごく綺麗でしたね
ベランダに出て大正解でした
 
久しぶりに友達から
メッセージもらいましたね
気にしてくれて嬉しかったです
 
そしていつも
このマグカップとハーブティーは
こう言って終える
(どちらが喋っているのかわからないけれど
違う組み合わせだと喋らない)
 
今日
よかったこと
まだまだ
あるのですが
それはあなたが一番
ご存知かと思いますので
お布団に入ってからでも
思い出してみてくださいね

 

 

(c) 2021 あわやまり

2021/10/09

「光るごまと読書」


寝入ろうとすると
胸のあたりに
かすかな違和感を感じる

ほんの小さな
ごま一粒ほどの違和感

横になると
胸のあたりが光り
部屋が明るくなって
眩しいほど

胸のあたりにいる
ごまに聞いてみる

なぜそんなに光るの?

するとごまは
胸のあたりから応える

おさまらないんでさぁ
どうにもこうにも
ふにおちないし
おさまらないんでさぁ

何が?
何がおさまらないの?

おらにはわからないんでさぁ
だからこうして光るんでさぁ

うんでも
ちょっと明るくて
眠れないんだけど

するとごまは少し間を置いて
言った

どうしたらいいか
わからんのでさぁ
なにをこわがっているのか
しってるんじゃないかいねぇ

こわがる?
わたしが?

きっと
あなたもわからんから
おらはこうして
光るしかないんだねぇ

そうやって
光るごまが現れる夜は
決まって
一睡もできない

今では
きっとこれにも
わけがあるんだろうと思って
煌々と光る部屋の中
本を読むことにしている

眠れなくて
困った夜だとしても
胸のあたりから光るので
本を読むには
ちょうどいい

 
 
(c) あわやまり 2021

2021/08/16

「傘」

仕事の帰り
持ってきた大きな傘を
今日一度も
開かなかったことに
気がついた

 

無意識に持っていたから
持っているのも
忘れていたほど

 

けれど
忘れて帰ってこなかったのは
その傘が大事だからだ
この大きな傘は
ちょうどよく大きくて
とても使いやすい

 

ずっと大事なんだけど
まだひらいていない
持っているのも
忘れそうな
わたしの中にある
一本の傘が
すこし
震えたようだった

 

 

(c) Mari Awaya 2021

2021/06/06

「煙の言葉」

お線香を炊いたら
煙の様が美しくて
つい
見とれる
 
す〜と曲線を描いたり
くるくるっとなったり
もしゃもしゃっとなったり
なんだか
誰かの声を
表しているよう
 
もう
ここにいない人が
なにか
一生懸命
話しかけてくれているように

 
 

(c) 2021 あわやまり

2021/06/02

「鼻うがい」

ひとかけらの
どよんとしたものが
心に居座っているとき
わたしは
鼻うがいをする

鼻うがいは
はっきり言って
上手く出来ない

左の鼻の穴から水を入れても
右の穴から出てくることはなく
結果
ブシューという感じで
入れた方の穴から
吹き出される

それがいいのだ

それを何回も繰り返すと
だんだん
可笑しくなってくるし
ひとかけらの
どよんとしたものも
一緒に
出ていったような気になる

だから
鼻うがいは
ずっと上手くならない方がいい

 

 

 

(c) 2021 あわやまり

2021/02/22

「トリセツコさんと家ごもり」

正直言うと

少し安心してる

不謹慎だとは思うけど

と言うと

トリセツコさんは

 

だろうと思った

と言った

 

トリセツコさんと私は

ほとんどずっと一緒にいる

もう何年になるだろうか

 

トリセツコさんは

私の部屋のカーテンにいる鳥で

私のことをよく理解してくれている

唯一の話し相手だ

 

私はほとんど外へ出ない

一番近いコンビニには行けるけれど

昼夜逆転の日も多く

起きているときはテレビや映画を観たり

本や漫画を読んだりしている

 

大学生の頃

満員電車で通学していた私は

ある日突然

パニック発作に襲われた

本当に死ぬと思った

それから怖くて電車に乗れなくなった

電車以外にもバスやエレベーター

映画館の通路側じゃない席など

だめな場所が増えた

自分がすぐ逃げられるところでないと

だめなのだ

しかも逃げられるからと言って

パニックが起きないわけではない

 

そもそもどうして自分が

パニック障害になってしまったのか

全然分からなかった

学校生活は順調だったし

将来やりたいことも色々あった

人の役に立つ仕事がしたい

そんな風に思っていた

 

けれど今の私は

人の役に立つどころか

社会や家族のお荷物だ

 

トリセツコさんは

家にこもるようになり

しばらくしてしゃべるようになった

 

それ面白いの?

 

それが彼女の初めての言葉で

私が観ているドラマについて聞いてきた

私がドラマの魅力を教えてあげると

 

へえ〜、それは面白そうね

続きはまだあるの?

 

そう言って一緒にドラマや映画を観て

悩んでいることを話すようになった

彼女にはなんでも話せる

 

今世界中の人が

家にこもっている

ウイルスから命を守るためだ

みんなが家にいる

もちろん私とは違う理由だとしても

許されているように思う

 

許されている、ね

一体あなたは誰に許されたいの?

 

わかんないよ

全体的に、社会とか世の中とか

 

そうか

じゃああなたは

もし自分が外へ出て生活している人で

あなたのようにこもっている人がいたら

許さないの?

 

それは、許すとかじゃないよ

その人にだって事情があるわけだし

 

そうでしょう?

誰にも

許される必要なんてないと思うけど

きっと

あなたがあなたを、許せていないのよね

 

そうなんだろうね

わかってるよ

でもこんな状況で

これでいいや

って思える人なんているかな

 

いないでしょうね

みんな自分を責めているんだと思うわ

でも私は少なくとも

あなたを責める気にはなれないわ

 

どうして?

 

だって、あなた頑張ってるじゃない

いつも病気のこと調べたり

良いって言うものはすぐ試したり

でも外へ行くと具合が悪くなって

真っ白い顔で帰ってきて寝込んだり

ひとりで戦っているんだもの

 

少し開けた窓から風が入ってきて

カーテンが膨れる

 

私はずっとここにいるわよ

何も出来ないけどね

でもあなたはこれから

何かを出来るようになる可能性が

大いにある

きっと良いきっかけを見つけられるわよ

何事も、ひとつずつよ

まあ今は家にいないと、だけどね

 

私はかろうじて

うん

と言った

 

また春の風が入ってきて

部屋に掛けてあるカレンダーを

ひらっとめくった

 

外へ出られていた時は

カレンダーに
目標の日や楽しみな予定を書き込んで
それに向けて

努力したりワクワクしたりしていた
今は何も書いていないけれど

またカレンダーに書けることが出来るといい

 

カレンダーがあと何枚かめくれたら

または

新しいカレンダーになったら

いつかきっと

近いうちに

 

(c) 2021 あわやまり

「秋美vol.33」より

詩集「記憶クッキー」→

2021/02/20

「それは数えられないほどたくさん」

どのくらい

このマグカップで飲んだだろう

目を覚ますためのコーヒー

一息つくための大好きなお茶を

 

どのくらい

このソファに座っただろう

眠くて力が入らない体を

ゆったりする時間を

支えてもらっただろう

 

どのくらい

このドアを開けただろう

ワクワクして出かける時も

憂鬱で行きたくない時も

 

どのくらい

ここで

いってらっしゃいと

おかえりを

言ってもらっただろう

 

その言葉は時にお守りで

灯台の明かりのようだった

 

 

(c) 2021 あわやまり

「秋美vol.33」より

2021/01/05

「新年の1」

紙に印刷してあった

明朝体の1が

トコトコと歩き出して

どこへ行くのかと思ったら

その飛び出た1の先っぽで

わたしの「やりたいことスイッチ」を

押したのだった

 

ああよかった

この1がゴシック体じゃなくて

ああよかった

この1が「やりたいことスイッチ」の場所を

知っていて

 

そしてわたしはスタートすることが出来る

1を忘れずに

1つずつ

 

 

 

(c) 2021 あわやまり

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