あわやまりあわやまり

詩

2025/01/01

「瞬き」

木々の隙間から見える
家々の明かりは
星の瞬きのよう

 

毎日
星に向かって
帰る

 

自分が帰れる星で
思う存分
しょぼんとしたり
お腹抱えて笑ったり
うっぷして泣いたりする

 

星の中で
安心して眠って
また朝が来る

 

当たり前のようにやってくる
奇跡を
そこにあり続けると思っている
幸福を
まだ本当には知らないで
鬱々とした気分で
リュックを背負う

 

その星の瞬きが
限りあるものだと
本当にはまだ知らないで

 

 

(c) 2024 あわやまり
「秋美 vol.36」より

2024/03/06

「湿布の角」

湿布の角は
丸い方が
いい

 

湿布を半分に切って
貼ると
どうも
その切った方の
角が四角くて
剥がれやすい

 

角を
丸くしておく
ということには
大いに意味がある

 

角を丸くしておいた方が

いいのは

湿布だけでなく

いろんなものも

そうかもしれない

 

例えば

心の角を

ちょっと丸くしておいたら

なんとなく

生きやすくなりそうな

気がする

 

 

(c) 2024 あわやまり

「秋美  vol.36」より

2023/02/01

「まちがいさがし」

表参道の
ビルの窓に
街路樹がきれいに
映っている

もしかして
映っている方が
本物より一枚
葉っぱが少ないとか
枝の方向が違ったり
しているのかも

誰か気がつくかな
どうかな
なんて言いながら
試しているのかも

気がついたらどうなるか?

きっと
一等きれいな葉っぱが
もらえます

 

 

(c) 2023 あわやまり

2022/07/15

「温泉」

森の中にある温泉に来た
大浴場に行くと
誰もいなかった

わたしはひとりで
のびのびと
身体を洗い
頭を洗った
すると
どうも人の声がするような気がする
よく耳を澄ますと
温泉がしゃべっているのだ

あー、かけながしー
あー、ながれるわー
まだー、とどまるわー
まだー、ここにいられるわー
あらー、だれもいないわー
あらー、もったいないわー
ここにー、いられるだけー
ここにー、いっしょにー
いましょー
いましょー

頭を洗い終えて温泉に入ると
わー、あふれるー
わー、あふれるー
と言うので
失礼ね
とわたしが言うと

あー、おこってるー
あー、イライラー
かけながしー
ながしましょー
と言われる

おかしくなって
はいはいー、ありがとー
と笑うと
温泉も
コロコロコロコロー
ポコポコポコポコー
と笑っているようだった

 

 

(c) 2022 あわやまり
→詩集「線香花火のさきっぽ」より

2022/02/02

「ずっしり眠る」

見つからない

そう言えば

最近

見かけていない

 

詩をファイルに

綴じる時に使う

最近は

年に一度くらい

ファイルに詩が

あふれそうになってから

穴を開ける

穴あけパンチ

 

それだけにしか

使わなくなった

 

昭和からうちにいる

穴あけパンチは

ひねくれて

あの

ずっしりとした

冷たい身体を

どこかに

隠したのかもしれない

 

なければ

ないで

困るのであろう

 

けれど

そんなことも忘れて

ずっしりと

眠り込んでいるのかもしれない

 

去年開けた穴の

丸い小さな紙きれを

すこしだけ

お腹に抱えながら
 
 
(c) 2022 あわやまり

2021/11/08

「真夜中のハーブティー」


なかなか寝付けず
キッチンで
いつものように
用意をする
 
陶芸教室で作った
マグカップに
ハーブティーを入れて
蓋をする
蓋も自分で作ったものだ
 
するとしばらくして
小さな声が聞こえてくる
 
あなたの
今日
よかったこと
三つ言いましょうね
 
昼に食べたうどん
あれ、最高でしたね
 
夕焼けがものすごく綺麗でしたね
ベランダに出て大正解でした
 
久しぶりに友達から
メッセージもらいましたね
気にしてくれて嬉しかったです
 
そしていつも
このマグカップとハーブティーは
こう言って終える
(どちらが喋っているのかわからないけれど
違う組み合わせだと喋らない)
 
今日
よかったこと
まだまだ
あるのですが
それはあなたが一番
ご存知かと思いますので
お布団に入ってからでも
思い出してみてくださいね

 

 

(c) 2021 あわやまり

2021/10/09

「光るごまと読書」


寝入ろうとすると
胸のあたりに
かすかな違和感を感じる
 
ほんの小さな
ごま一粒ほどの違和感
 
横になると
胸のあたりが光り
部屋が明るくなって
眩しいほど
 
胸のあたりにいる
ごまに聞いてみる
 
なぜそんなに光るの?
 
するとごまは
胸のあたりから応える
 
おさまらないんです
どうにもこうにも
ふにおちないし
おさまらないんですよ
 
何が?
何がおさまらないの?
 
わたしにはわからないんです
だからこうして光るんです
 
うんでも
ちょっと明るくて
眠れないんだけど
 
するとごまは少し間を置いて
言った
 
どうしたらいいか
わからないんです
なにをこわがっているのか
しってるんじゃないですかね
 
こわがる?
わたしが?
 
きっと
あなたもわからないから
わたしはこうして
光るしかないんです
 
そうやって
光るごまが現れる夜は
決まって
一睡もできない
 
今では
きっとこれにも
わけがあるんだろうと思って
煌々と光る部屋の中
本を読むことにしている
 
眠れなくて
困った夜だとしても
胸のあたりから光るので
本を読むには
ちょうどいい
 
 

(c) あわやまり 2021

2021/08/16

「傘」

仕事の帰り
持ってきた大きな傘を
今日一度も
開かなかったことに
気がついた

 

無意識に持っていたから
持っているのも
忘れていたほど

 

けれど
忘れて帰ってこなかったのは
その傘が大事だからだ
この大きな傘は
ちょうどよく大きくて
とても使いやすい

 

ずっと大事なんだけど
まだひらいていない
持っているのも
忘れそうな
わたしの中にある
一本の傘が
すこし
震えたようだった

 

 

(c) Mari Awaya 2021

2021/06/06

「煙の言葉」

お線香を炊いたら
煙の様が美しくて
つい
見とれる
 
す〜と曲線を描いたり
くるくるっとなったり
もしゃもしゃっとなったり
なんだか
誰かの声を
表しているよう
 
もう
ここにいない人が
なにか
一生懸命
話しかけてくれているように

 
 

(c) 2021 あわやまり

2021/06/02

「鼻うがい」

ひとかけらの
どよんとしたものが
心に居座っているとき
わたしは
鼻うがいをする

鼻うがいは
はっきり言って
上手く出来ない

左の鼻の穴から水を入れても
右の穴から出てくることはなく
結果
ブシューという感じで
入れた方の穴から
吹き出される

それがいいのだ

それを何回も繰り返すと
だんだん
可笑しくなってくるし
ひとかけらの
どよんとしたものも
一緒に
出ていったような気になる

だから
鼻うがいは
ずっと上手くならない方がいい

 

 

 

(c) 2021 あわやまり

ページの先頭へ

ページの先頭へ