あわやまりあわやまり

詩

2019/11/08

「ごそごそ道」

昔うちの裏に

空き地があって

木や雑草が

ぼうぼうに生えていた

 

そこに

ごそごそ道という道があった

 

そこはうちの人しか通らない

おばあちゃんと姉と私

あとのら猫も通っていた

 

道のないところを

ごそごそいわせながら

歩いていくから

ごそごそ道

 

その道を通っていけば

八百屋にも

クリーニング屋にも

公園にも

近道して行かれる

 

今はもう

家が建って

なくなってしまったけれど

おばあちゃんと手をつないで

ごそごそ

ごそごそ

いわせて

歩いたあの道が

まだどこかに

あるような気がするよ

 

 

(c) 2008 あわやまり

詩集「線香花火のさきっぽ」より(他の詩も読める特設ページへ→)

2019/11/06

「色とりどりの糸」

洋服のお直し屋さんに

たくさんの色の糸が

グラデーションになって

きれいに並んでいる

 

色がいっぱいあるのは

いいな

いろんな色の服が直せる

 

人生もきっとそうだな

いろんな思いをした方が

糸の色が増えて

こころの

ほつれたのや

やぶれたのを

治すことができる

 

どんな色でも

ゆっくり 時間で

糸を巻くようにして

私の中のすみっこに

置いておいて

そしてまた いつか

やぶれたりした時に

今度はそれを治すのを

手伝ってくれる

 

 

(c) 2009 あわやまり

詩集「ぼくはぼっちです」より

2019/11/03

「抹茶ソフトあんみつ」

全然わかっていなかった

とわたしが言うと

 

何が?

とテルオくん

 

だからね

たとえば人の話を聞いていて

本当に真剣に聞いて

理解しようと思って

わかったと思うの

でも実際同じようなことが

自分におきてみて

はじめて

わかったって思ったの

ああ、わかってなかったんだって

 

テルオくんはクリームあんみつの

ソフトクリームを食べながら聞いている

 

あとね

人のことを

ちょっと会っただけで

ううん、前からの知り合いであっても

なんとなくわかったように思っちゃう

でも本当は

その人のほんのちょっとしか

わかっていないんだって

わかったの

 

わたしの抹茶ソフトあんみつは

汗を流しはじめた

するとテルオくんは

 

僕なんてさ

じぶんのこと

どれくらいわかっているか

それすら わかんないよ

みんなそうなんじゃない

 

わたしはやっと

抹茶ソフトを二口食べる

 

そうかなぁ

と落ち込むわたしに

 

わかっていなかった

ってわかったことがすごいと思うけど

たいていそんなこと気にしないでしょ

まあ、溶けちゃうから食べたら

とテルオくん

 

そうかなあ

そうなのかな

なんか今日はアイスって気分じゃなかった

普通のにしとけばよかったなぁ

とわたしが言うと

 

やった、じゃあ抹茶ちょうだい

とテルオくんはわたしのお皿を

自分の方へ持っていった

 

あれ、抹茶嫌いじゃないの?

と聞くと

 

そんなことないよ

あ、ほらね

きみはまだ僕のことを

わかっていない

にしし、と笑った

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

私家版詩集「テルオくんとわたし」より

2019/10/31

「あなたがいる世界」

生まれたてのあなたを

抱いたのは暑い日だった

まだ目も見えていないあなたは

とてもちいさくて

こわれてしまいそうだった

 

あなたがいる世界では

あなたがいない世界のことを

想像するのはむずかしい

 

すこし前まで

あなたのいない世界は

当たり前だったと言うのに

 

世界は

常に塗り替えられる

だんだんと

突然に

 

そして明日は

気がつかないくらいに

全然違う世界になっている

 

 

(c) 2018 あわやまり

詩集「線香花火のさきっぽ」より

2019/10/28

「片割れ」

いろんなものを日々

なくしながら生きている

なくしたと気づくものもあれば

なくしたことさえ

分からずにいるものもある

 

一昨日イヤリングを片方落とした

とても気に入っているものだったので

使った電車の沿線にある遺失物窓口に行ってみた

イヤリングの特徴を細かく伝えると

男性の職員さんは

ちょっとお待ちくださいと言って奥へ消えた

待つこと10分

男性はプリントアウトした紙を5、6枚持って来た

 

それはこの3日間に

東京の地下鉄で落とされた

迷子のイヤリング97個の記録だった

 

誰かが

買ったばかりでうきうきと

あるいはいつものように

自分の一部として身につけ

きっと右と左が対で

そのどちらかがここに記されている

 

イヤリングたちは

暗い保管室の中でささやき合う

 

迎えに来てくれるかしら

もう一度会えるかしら

 

けれど私は

そのリストから自分のイヤリングを

見つけることは出来なかった

そこには色と素材が書かれているくらいで

自分のものだとは特定出来なかったのだ

 

そのものを見たら

すぐに分かるのに

 

きっと出逢えたら

すぐに分かるのに

 

なくしたことさえ忘れて

求め探しているのかもしれない

この入り組んだ

地下鉄のような迷路で

 

 

(c) 2017 あわやまり

2019/10/27

「海の色」

海の色の

まんまるい実を

ひとつだけつけた木があって

その実が光るものだから

みんなきれいねって眺めるけれど

あれはね

海の深さより深い

誰かの哀しみのサインなの

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

2019/10/25

「みのむし」

みのむし、と言えば

ひとつだけ思い出すことがある

 

小学校低学年のとき

わたしは体が弱く

ちびでやせっぽっちで

食も細く

給食はいかに少なく盛ってもらうかを

一番に考えているような子だった

 

そのころ

理科の宿題で

みのむしをとってくる

と言う宿題がでた

 

そのときの担任の先生は

痩せていて背が高く

女の先生で

とても厳しい人だった

 

ある時などは

校外学習でおにぎりを持参するように言われ

おにぎりだけだと言われたのに

わたしの母が漬物を添えたのを見て

おにぎりだけと言いましたよ!

と指摘するほどの人だった

 

さておきわたしは

今も昔も虫は大嫌い

みのむしなんて探すのも嫌だったけれど

早朝に母について来てもらい

やっと見つけた

ちびでやせっぽっちのみのむし

 

それで何をするのかと思ったら

みのを切って

中の虫を取り出すと言うのである

わたしはぞっとした

とても出来ないと思った

ほとんど泣きそうだった

逃げ出したかった

 

あまりにショックで

どうやってやったのか覚えてないのだけど

(たぶん誰かにこっそりやってもらったのだと思う

隣の席の男の子とかに)

何とかしてみのを切ると

中には小さなかたまりが

動かないでいた

こわいから

よく見られなかった

 

きっとそのみのむしは体が弱く

少食で大きくなれなかったのだ

 

その後

人より遅れて成長期を向かえ

周囲も驚くほどの食欲で

すくすくと大きくなったわたし

みのむしを見ると

あの宿題と先生と

ちびだったころのことを

思い出す

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

2019/10/23

「みたらし団子」

野球のユニフォームを着た少年が

みたらし団子を持っている

ここは電車の中だ

 

彼の隣には

おしゃれをした若い女性が座っている

少年のみたらし団子は

たれをたっぷりつけて

つややかだ

 

それだけに 心配だ

 

少年にたれがついてしまうのなら、仕方がない

だけれどもし、隣の女性についてしまったら

これからデートに行くかもしれない

彼女はどうするだろう

 

速やかに、食べてしまえばいいのに

その思いをよそに

少年はみたらし団子を食べようとしない

 

たまに激しく揺れる電車の中で

みたらし団子をじっと見つめ

行方を見守る一人の女のことを

食いしん坊だと

どうか 思わないで欲しい

 

 

 

(c)  2012 あわやまり

2019/10/21

「おじぎ草」

友人がくれたおじぎ草をベランダに置いた
手作りの小さい器に植わっていて
なんともかわいい
撫でてやる度
しゃわしゃわ しゃわ
といって葉を閉じてしまうのもかわいい

 

ところが
夏の終わりに近づいても
おじぎ草は大きくなり続けた
あと少ししか大きくならない
と聞いていたので驚いた
大きな鉢に移しかえても
撫でてやると従順に
しゃわしゃわ しゃわ
と大きな葉を閉じる

 

そのうちに
朝起きて撫でてやると一緒に
しゃわしゃわ しゃわ
と閉じられる葉の中に入ってしまうようになった
初めのうちはそれでも数分すると中から出てきて
バナナだけ食べてからのろのろと仕事にいった
さらに日が経つと
葉っぱの中に入っていくのが日課になってしまった
もうずっと葉っぱの中で眠りたいと思い
入っている時間が日に日に長くなった
仕事にも遅刻して怒られることが増えていった

 

眠りたくて眠りたくて仕方がなかった
身体のいろんなところや
心のすみずみから
休もう、休もう
というメッセージがきていた
周囲の勧めもあり
楽しく生きていけるぞ
と思えるようになるまで
おじぎ草の中で眠ることにした

 

たくさん働かせた身体と
いろいろ悩ませた心も
ゆっくり眠りましょう
しゃわしゃわ しゃわしゃわ しゃわ
みなさん
ちょっとの間だけ
さようなら
きっとじきに
元気になります

 

 

(c) 2006 あわやまり

私家版詩集「眠って眠って、春」より

2019/10/17

「だいだいあめ」

窓ガラスに夕焼けが

ぽっちゃり丸く

うつる列車があります

その列車は夕方にしか走りません

走ってすることは

だいだいあめを集めること

ガラスにうつった夕焼けが

ぽろんぽろんと

落ちてくるのを集めるのです

 

私達は一生に三回

そのあめだまを食べられます

食べたい時は

「だいだいあめだまセンター」に

三枚つづりの券を一枚切って

封筒に入れて送ります

この券はパスポートやなんかと一緒にして

大切にしておきます

 

最近体調も悪く心も元気がないので

初めてあめだまを送ってもらいました

あめだまを送ってもらうのは

人生最大の失恋をしたときとか

つらい病にかかったときとか

未来に希望がもてなくなったときとか

人それぞれです

 

ある人はこのあめだまを

何度も食べられたらいいのにと言います

けれどもこれは万人に平等に

一人三回と決まっています

 

券を送って三日後

小さい箱に入った郵便物が届きました

開けると白い綿の中に

ビニールで包んだだいだいあめがありました

私はそっとつっついて

それからつまんでビニールを破いて

かすかに光っているように見えるそれを

ぱくっと口の中に入れました

それは熱をもっているようで

舌の上でしゅわぁっと溶けました

 

これで悪いところは全て治る

とは思わずに

私の中に小さな太陽ができて

それが元気に導いてくれたらいいと思うのです

 

なくなってからも胸の辺りに

温かい感じが残っていました

 

 

 

(c) 2007 あわやまり

詩画集「ぽちぽち、晴れ」より

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