あわやまりあわやまり

詩

2019/11/27

「ぼんやりゾーン」

テルオくんが連絡もなしに

三十分待ち合わせに遅れてきた

 

でもトコトコと歩いてやってきて

 

やあごめん

うっかり「ぼんやりゾーン」に座っちゃって

と言う

 

「ぼんやりゾーン」って最近できた電車の?

あれどうなるの、座ると

 

テルオくんはポリッと頭をかいて

 

僕さ、ぼんやりするのなんて

どこでもできるからって

ちょっとバカにしてたんだよね

でも気がついたらそこに座っちゃってて

で我に返ったら終点だったの

バカにできないね

「ぼんやりゾーン」

 

へえ

なにが違うの、他の席と

 

いやあ、よくわかんないなあ

ほら、ぼんやりしてたから

今度座ってみなよ

わかるから

 

ふうん

じゃ、行こうか

とわたしが言って

駅の北口にあるカフェに向かう

歩きながら

 

しかし

 

とテルオくんは締めくくった

 

人生にはぼんやりするときが

たまには

ひつようだね

 

 

(c) 2009 あわやまり

2019/11/26

「忘れてしまった約束」


他の目をたいそう気にする星がいて
私は他の星より輝いているかしら
もっときれいに光れないかしらと
磨き職人をやとって
自分を丸ごと磨かせた

 

でも自分では
どのくらい輝いているのか分からない
職人のうちのひとりを
いつも見える青い星へと向かわせた

 

あの星へ行って
私がきれいに光っているか
確かめてきてちょうだい
きれいに光っているのなら
私に向かって
あなたはどの星よりもきれいです
と教えてちょうだい
そうしたらあなたにだけ
とびきりのご褒美をあげます

 

職人は青い星へ向かった
けれども思いのほか遠かった
星に着いた頃には年をとっていた
そしてこの星に
何をしに来たのかを
忘れてしまった

 

年をとった職人は青い星で
よく星を見上げた
ことさらきれいに光る星を見ては
何か忘れていることがある気がしたり
その星の瞬きが
何か言っているように見えたりした

 

とびきりのご褒美がなんだったのか
今でも分からない

 

(c) 2008 あわやまり

詩集「忘れる星」より

2019/11/19

「サイダー」

手のひらから
腕から
顔から頭から
からだ全部から
炭酸が抜けていくように
私の中の
悲しみが
ふつふつふつ、と
放出される

それが終わっても
まだまだ悲しみは
泉のように
湧いてくる

それは時々
涙になって
私は気の抜けたサイダーみたいに
だらんと力の入らないまま
寒い部屋の中の
あたたかい布団の中で
動けないでいる

 

 

(c) 2018 あわやまり

2019/11/16

「出会う」

この歌に出会うまで

今日までかかった

数年前に

世に出ていた

いい歌詞だって

評判だった

歌なのに

 

この本に出会うまで

今日までかかった

何十年も前に

書かれていた

有名な作家の

本なのに

 

その歌や本の来た道と

私の興味のベクトルが

偶然という場所で

決まっていたことのように

ぶつかったから

 

 

(c) 2008 あわやまり

→詩集「ぼくはぼっちです」より

2019/11/08

「ごそごそ道」

昔うちの裏に

空き地があって

木や雑草が

ぼうぼうに生えていた

 

そこに

ごそごそ道という道があった

 

そこはうちの人しか通らない

おばあちゃんと姉と私

あとのら猫も通っていた

 

道のないところを

ごそごそいわせながら

歩いていくから

ごそごそ道

 

その道を通っていけば

八百屋にも

クリーニング屋にも

公園にも

近道して行かれる

 

今はもう

家が建って

なくなってしまったけれど

おばあちゃんと手をつないで

ごそごそ

ごそごそ

いわせて

歩いたあの道が

まだどこかに

あるような気がするよ

 

 

(c) 2008 あわやまり

詩集「線香花火のさきっぽ」より(他の詩も読める特設ページへ→)

2019/11/06

「色とりどりの糸」

洋服のお直し屋さんに

たくさんの色の糸が

グラデーションになって

きれいに並んでいる

 

色がいっぱいあるのは

いいな

いろんな色の服が直せる

 

人生もきっとそうだな

いろんな思いをした方が

糸の色が増えて

こころの

ほつれたのや

やぶれたのを

治すことができる

 

どんな色でも

ゆっくり 時間で

糸を巻くようにして

私の中のすみっこに

置いておいて

そしてまた いつか

やぶれたりした時に

今度はそれを治すのを

手伝ってくれる

 

 

(c) 2009 あわやまり

詩集「ぼくはぼっちです」より

2019/11/03

「抹茶ソフトあんみつ」

全然わかっていなかった

とわたしが言うと

 

何が?

とテルオくん

 

だからね

たとえば人の話を聞いていて

本当に真剣に聞いて

理解しようと思って

わかったと思うの

でも実際同じようなことが

自分におきてみて

はじめて

わかったって思ったの

ああ、わかってなかったんだって

 

テルオくんはクリームあんみつの

ソフトクリームを食べながら聞いている

 

あとね

人のことを

ちょっと会っただけで

ううん、前からの知り合いであっても

なんとなくわかったように思っちゃう

でも本当は

その人のほんのちょっとしか

わかっていないんだって

わかったの

 

わたしの抹茶ソフトあんみつは

汗を流しはじめた

するとテルオくんは

 

僕なんてさ

じぶんのこと

どれくらいわかっているか

それすら わかんないよ

みんなそうなんじゃない

 

わたしはやっと

抹茶ソフトを二口食べる

 

そうかなぁ

と落ち込むわたしに

 

わかっていなかった

ってわかったことがすごいと思うけど

たいていそんなこと気にしないでしょ

まあ、溶けちゃうから食べたら

とテルオくん

 

そうかなあ

そうなのかな

なんか今日はアイスって気分じゃなかった

普通のにしとけばよかったなぁ

とわたしが言うと

 

やった、じゃあ抹茶ちょうだい

とテルオくんはわたしのお皿を

自分の方へ持っていった

 

あれ、抹茶嫌いじゃないの?

と聞くと

 

そんなことないよ

あ、ほらね

きみはまだ僕のことを

わかっていない

にしし、と笑った

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

私家版詩集「テルオくんとわたし」より

2019/10/31

「あなたがいる世界」

生まれたてのあなたを

抱いたのは暑い日だった

まだ目も見えていないあなたは

とてもちいさくて

こわれてしまいそうだった

 

あなたがいる世界では

あなたがいない世界のことを

想像するのはむずかしい

 

すこし前まで

あなたのいない世界は

当たり前だったと言うのに

 

世界は

常に塗り替えられる

だんだんと

突然に

 

そして明日は

気がつかないくらいに

全然違う世界になっている

 

 

(c) 2018 あわやまり

詩集「線香花火のさきっぽ」より

2019/10/28

「片割れ」

いろんなものを日々

なくしながら生きている

なくしたと気づくものもあれば

なくしたことさえ

分からずにいるものもある

 

一昨日イヤリングを片方落とした

とても気に入っているものだったので

使った電車の沿線にある遺失物窓口に行ってみた

イヤリングの特徴を細かく伝えると

男性の職員さんは

ちょっとお待ちくださいと言って奥へ消えた

待つこと10分

男性はプリントアウトした紙を5、6枚持って来た

 

それはこの3日間に

東京の地下鉄で落とされた

迷子のイヤリング97個の記録だった

 

誰かが

買ったばかりでうきうきと

あるいはいつものように

自分の一部として身につけ

きっと右と左が対で

そのどちらかがここに記されている

 

イヤリングたちは

暗い保管室の中でささやき合う

 

迎えに来てくれるかしら

もう一度会えるかしら

 

けれど私は

そのリストから自分のイヤリングを

見つけることは出来なかった

そこには色と素材が書かれているくらいで

自分のものだとは特定出来なかったのだ

 

そのものを見たら

すぐに

分かるのに

 

なくしたことさえ忘れて

求め探しているのかもしれない

この入り組んだ

地下鉄のような迷路で

 

 

(c) 2017 あわやまり

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