あわやまりあわやまり

詩

2017/11/03

「あたためるよ」

あたためるよ
君を
あたたかいお風呂に
入れてあげて
ほわほわの毛布で
包んであげて
ストーブで
部屋もあたたかくして

 

あたためるよ
君の
その奥の奥まで
届くように
なんでもするよ

 

僕が抱きしめて
君があたたかく
なれるのなら
僕は冷たくなっても
いいんだ

 

あたためるよ
ひとりぼっちだと
思いこんでいる
君を
そんな人なんていないって
思っている
君を
いつか

 

 

(c) Mari Awaya 2009
手製本「不思議ないきもの」より

2017/11/03

「深海」

今は
海 深いところで
貝の中に入って
深く 深く
眠りたい

 

何年か
何百年かたったら
あなたが貝をたたいて
起こしてくれる?

 

そのときには
本来の私になって
元気になって
でていくから

 

 

(c) Mari Awaya 2009
手製本「不思議ないきもの」より

2017/11/03

「ぼんやりゾーン」

テルオくんが連絡もなしに
三十分待ち合わせに遅れてきた

 

でもトコトコと歩いてやってきて

 

やあごめん
うっかり「ぼんやりゾーン」に座っちゃって
と言う

 

「ぼんやりゾーン」って最近できた電車の?
あれどうなるの、座ると

 

テルオくんはポリッと頭をかいて

 

僕さ、ぼんやりするのなんて
どこでもできるからって
ちょっとバカにしてたんだよね
でも気がついたらそこに座っちゃってて
で我に返ったら終点だったの

 

へえ
なにが違うの、他の席と

 

いやあ、よくわかんないなあ
ほら、ぼんやりしてたから
今度座ってみなよ
わかるから

 

ふうん
じゃ、行こうか
とわたしが言って
駅の北口にあるカフェに向かう
歩きながら

 

しかし

 

とテルオくんは締めくくった

 

人生にはぼんやりするときが
たまには
ひつようだね

 

 

(c) Mari Awaya 2009
手製本「テルオくんとわたし」より

2017/11/03

「あたたかな夢」

もうちょっとだよ
その先で待ち合わせだから

 

と誰かに微笑んで言われて
わたしは夢から戻って来た

 

今まで会ったことのある人か
それとも出会っていない人なのかすら
もうぼやぼやしてわからない

 

誰だろう

 

でもその先が
わたしが生きている先
ということなら
あなたはもうちょっとで
やって来てくれるんだね

 

 

(c) Mari Awaya 2009
手製本「春を躍る」より

2017/11/03

「パズル」

最近よく出かけるようになったせいか
パズルを拾うことが多くなった

 

パズルは誰かと出逢うための
予約券みたいなものだ

 

人は一つずつパズルを集めて
少しずつそれをつくっていく
普通のパズルのように
完成の絵は決まっていなくて
ブロック遊びのように
だんだんできる感じ
ゆっくり一つ一つ
はまるところにはめていく

 

だからパズルを拾った人は
それを大事にとっておいて
いつかそれを
探している人に出逢ったとき
渡してあげる

 

パズルはその人に出逢うために
あるようなもの

 

誰かさん
私、持ってますよ
あなたのパズル

 

 

(c) Mari Awaya 2009
手製本「春を躍る」、私家版「わたし、ぐるり」より

2017/11/03

「ほねの雲」

魚のほねのような雲が流れていく
ほねだけなら
空にああしてただよえるのかしら

 

空からの景色を見たいから
おめめも一緒にいけないかしら
ふわぁふわぁ
ただよう感じを味わいたいから
やっぱりからだもいけないかしら

 

そうしてただよえたなら
私の心の重いのも
すこしは軽くなるでしょう

 

 

(c) Mari Awaya 2009
手製本「空にあるもの」より

2017/11/03

「一年前のつらいこと」

夕暮れどき
雨戸を閉めようとしたら
天狗が持つような葉っぱの下に
あめあめこぞうが立っていた

 

あ、久しぶりだね
私が話しかけると

 

うん、また来たよ
この前のこと、まだつらい?
と聞く

 

私はふと考えてしまう
この前?
つらいこと?
そうだ
この子と前に会ったときは
つらいことを抱えていて
泣いてばかりいた
でもそれは 一年前のこと
今ではもう つらくない
あの痛みを懐かしく思うくらい

 

もうつらくないよ
時が流れるのって、すごいね
と私が言うと
あめあめこぞうはおかしな顔をして

 

そうかな すごいの?
よくわかんないけど
つらいのがたまっていくより
いいね
と言う

 

そして
またしばらく遊んでね
と言ってから
隣の庭に走って行った

 

きれいに咲いている
水色のあじさいが
わさわさっと揺れた

 

 

(c) Mari Awaya 2008
手製本「あわやまりのひとしずく」より

2017/11/03

「平日のオムライス屋」

本物か偽物か
はっきりさせたい
とわたしが言うとテルオくんは
へぇ、そうなんだ
とオムライスを口に入れてから言った

 

本物だと、どうなるわけ?
と言うので
本物だったら
胸張ってがんばって
生きていかれる
と答える

 

じゃ、偽物だったら?
そしたら
それでもがんばって
生きていかなきゃ

 

じゃあ別にはっきりさせなくても
いいんじゃない
それに
誰が決めるの
本物と偽物

 

どっかにいる誰か
本物がわかる人

 

それが誰か知ってるの?

 

知らないよ

 

じゃあ
はっきりさせようがないじゃない
ははは
とテルオくんは笑う

 

そうなんだけど

 

どっちでもさ
本物でも偽物でも
自分が思ったように
がんばって生きてれば
いいんじゃないの
仮にもしも
そういう判別があるとしても
もっと後から
ついてくるものかもしれないよ

 

わたしはオムライスの中にあるチーズを
フォークでのばしながら
そうなんだけどさ
とため息をつく

 

大丈夫
違う角度からみたら
みんな本物なんだから
そう信じてないと
生きていかれないんだから
ははは
とテルオくんは笑った

 

そして
でも僕はもし偽物でも
胸張って生きていくよ
と言って
もりもりサラダを食べた

 

 

(c) Mari Awaya 2008
手製本「あわやまりのひとしずく」「テルオくんとわたし」より

2017/11/03

「マグネット」

ベッドの上に
うつ伏せで
まるく
ちいさく
卵のようになって
地球にくっつく
小さなマグネットのよう

 

くっついていられるのは
生きている
私があるから

 

 

(c) Mari Awaya 2008
手製本「いくつもかの夜をめくった」、詩集「ぼくはぼっちです」より

2017/11/03

「水曜の睡魔」

水曜の夜は
なぜだか分からないけれど
八時くらいに眠くなる
そして眠ってしまう

 

もしかしたら水曜の夜には
知らない方がいい
なにかしらの事柄があって
(十時頃に悪魔の子どもが尋ねてくる、とか
可愛がっている近所の犬が狼に変身する、とか
部屋中にグリンピースがわいてくる、とか)
私はそれを第六感でキャッチして
自ら眠る体勢に
持っていっているのかもしれない

 

知らない方がいいことは
この世にいくつかある

 

 

(c) Mari Awaya 2008
手製本「いくつかの夜をめくった」より

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