あわやまりあわやまり

詩

2017/11/03

「抜け殻部長」

抜け殻部長は今日も電話の取り違えをした
それから話し掛けてもなかなか反応がなかったり
渡す原稿を間違えたりもした
私がこの会社に来たのは二か月前だけれど
その時すでに抜け殻部長はここにいた

 

今日夕方過ぎ
帰り道が一緒の佐々木さんは
座れない電車の中で
本当にもう、いやになっちゃう
と愚痴をこぼした
抜け殻部長の下で働く人なので
色々と大変なことも多いらしい
私はあまり抜け殻部長のことを知らないので
はい、ふうん、と
うなずいているだけ

 

たばこばっかり吸いにいっちゃって
帰る時もすーっと音を立てずに帰っちゃうし
ほんとう、もう

 

はい、と私
電車がカーブでぎゅうんと揺れる

 

抜け殻部長の中身の方は今どうしているんですか
私は帰り道で初めての長い言葉を発する

 

しらない
どっかにいるでしょうけど
いいのよどこにいたって
こっちは抜け殻部長がしっかりしてくれれば

 

はい、と私
ぼうっと遠くを見つめて
煙草を吸う抜け殻部長が一瞬よぎる

 

電車が速度を落とす
キイキイキイキイ プシュー
じゃあお疲れさま
と佐々木さんは電車を降りていく

 

はい、お疲れさまでした

 

電車が動いてトンネルに入ると
私は窓に映る自分の顔を、じいっと見た

 

私の抜け殻は今頃どうしているだろうか
多分抜け殻部長のように
誰かに迷惑をかけたり
怒らせたりしているのかもしれない

 

私は目を、ぎゅうっとつぶった

 

キイキイキイキイ プシュー
背筋を伸ばしてホームへ降りる
今日の風は 少し甘い匂いがした

 

 

(c) Mari Awaya 2005
手製本「帰り道」私家版「今日、隣にいたひと」より

2017/11/03

「凧あげ」

凧上げをしに行って
あげるばかりじゃつまらないから
自分が凧になってみました

 

大空高く
ツイーツツツー
風に乗って
ふわんふわわん

 

そうしていたところに
大きな風にぶつかって
私は激しくぐるぐると回ってしまいました

 

はっと思って下を見ますと
大変 糸が切れていたのです

 

その糸がその時切れたのか
あるいははじめから繋がってなどいなかったのか
それは分かりませでした
けれども
大きな風にぶつかると
自分は本当に繋がっているのか
あるいは自分は本当は誰と繋がっているのかが
分かるということを知りました

 

 

(c) Mari Awaya 2005
手製本「帰り道」、詩集「ぼくはぼっちです」より

2017/11/03

「梅雨の居酒屋にて」

夏の前に梅雨があることを忘れていた
わたしがそう言うと テルオくんは
一点をしばらく見つめてからこう言った

 

そうそう
季節と言えば
ここでウーロン茶をゴクリ
世界最後の季節は何だと思う?
わたしはすぐに
春でしょうね と言った
するとテルオくんは
そうかあ 春かぁ
と言ってまたゴクリ

 

今度はわたしがテルオくんに
テルオくんは何だと思うの
と聞くと
僕はね 夏だと思うんだ
と答えた

 

でもさ ゴクリ と続ける
世界が全部春な時って ないよね
まあ そうだね
今は ここは梅雨だけど
何処かの国はずっと夏だし
別の何処かの国は今は秋だし

 

じゃあさ ゴクリ
今世界は成長と退化だったら
どっちだと思う?
うん むつかしい
僕はね きっと退化だと思う
そうかなぁ
これも ある意味ではね

 

別にどうでもいいんだけど
ゴクリゴクリ
僕も絶対死ぬし
世界もいつか終わってしまうし

 

でもさ とりあえず
今度の夏が世界最後の季節に
ならないといいなって 思うんだ

 

そう言ってテルオくんは
ウーロン茶を飲み干して
すいません 温かい緑茶ください
と手をあげた

 

 

 

(c) Mari Awaya 2003
「ビー玉を通った光り」「テルオくんとわたし」より

2017/11/03

「池と色作り師と何者か」

私のおかかえの色作り師が
ある時 もう色を作りたくないと言ってきた
なんでも 最近の色が
どうにもこうにも暗い色ばかりで
それに付け加えて作ったところで
誰も見ないと言うのである

 

色作り師の仕事は
発色場の池で発生した色を
自分で集めた色の素から
混ぜ合わせて作って
それを私に送ってくる事
けれども
どんな腕のいい色作り師が作っても
池と全く同じにすることは
出来ないのが現実だった

 

どうしたことかしらと
今度は発色場へ行ってみると
いくつかある小さな池のほとんどに
木で蓋がしてあるのだった
二、三蓋のしていない池の色は
色作り師が言うように
どれも暗く重かった

 

私が送られた色を
なかなか誰かに渡さないから
あるいは
誰も貰ってくれないからか
それともそんなやり取り自体が
意味なく思えてしまったのか
何者かがこうして 蓋をしたのだ

 

他の人はどうなのだろうと
思ったけれどもそれを知るには
やはりその人から貰った色で
推測するより手はないのだった

 

私は池の中やら
その周辺やら
まったく離れた山の方まで
蓋をした者
あるいは
色を変えている何者かを
探しに行った
けれどもそいつは絶対にいるのに
姿を見せはしないのだった

 

池は日に日に変わって
色も変わるし
蓋もあったりなかったり

 

そんなようなので
私は何者かを探すのはやめにして
とにかく色作り師からもらった色を
大切に持って
それを本当にあげたい人だけに
惜しまずあげる事にした

 

何者かはきっと
私にも誰にも
見つかってはいけない
逃げ切れ 何者か

 

 

(c) Mari Awaya 2003
私家版「ビー玉を通った光り」「夜になると、ぽこぽこと」より

2017/11/03

「ぼっち」

わたしもう
ひとりぼっちだ
これからもきっと
ひとりぼっちだ

 

ひとばん、ふたばん
ひとりぼっちで
ふとんかぶって寝ていたら
みっかめの昼に
ちょっとちょっと
とふとんをひっぱるやつがいる
見てみるとちいさな
ほわほわしたいきもの

 

ぼくはぼっちです
ひとりになった人についてきます
だから、まあ
ひとりの人も
ほんとうのひとりではないんです
ぼく、幸か不幸か
人に好かれてしまうんで
だからひとりの人はずっと
ひとりではいられないんです
まあ、信じられなくてもみていてください
そのうちわかります
ひとりの人にはぼくがついてます

 

と言ってわたしの耳から
ぼぉっと入ってきた
おかしなゆめと思って
またふとんかぶったけど
ほんとうだったらいいな
ほんとうにずっとは
ひとりぼっちじゃない気がするな
そう思えてきて
こころすこし明るくなった

 

 

(c) Mari Awaya 2009
「ぼくはぼっちです」あわやまり(たんぽぽ出版)に収録

2017/11/03

「そのスープの外へ」

学校の先生や家族の前では笑わなきゃ
喉の奥がつまるようなこの苦しさは
知られちゃいけないって
がんばっているあなたへ

 

まず 今あなたがいる
そのスープの中から出ておいで
それから
だいぶ疲れてしまっただろうから
安心できる温かいお茶の中で
ゆっくり休もう
それで 元気になったら
他のお皿をのぞいたり
違うテーブルに行ってみたりしよう

 

そこにも世界はあるから
今いるスープの中だけが
世界の全部じゃない
あなたが生きるべき場所の
全てじゃない

 

居心地のいいテーブルを見つけたり
あなたの良さを活かして
美味しいスープをつくることもできる
まずいスープしか知らないで
終わりにしてしまうのは
もったいない

 

テーブルは いくつもある
スープも たくさんある
あなたに合ったスープが
広い世界に 絶対ある

 

(c) Mari Awaya 2007

 

*2013年5月にも、この詩を収録したアンソロジー詩集が出版されます。
「一編の詩があなたを強く抱きしめる時がある」「ぼくはぼっちです」にも入っています。

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