あわやまりあわやまり

詩

2019/10/14

「わたし像」

船で世界へ旅に出ようとした

あのころ

わたしは欲しいものを

なにも持っていないのに

「こうでなければいけないわたし像」を

何体も持って旅に出た

 

重くて ときに

私を押しつぶそうとするその像たちを

置いてきたくとも

置いてはこられなかった

 

同室の子たちは

狭いベッドの脇に並んだ

わたし像たちを見ると

たくさんいるんだね

でもよくできてる

これなんて

あの女優に似てるね

などと言った

 

十九の点を線でつないでいくような旅

様々な文化の国

出会った人々

語り合える友達

広い海

ものすごい数の星

 

旅はこの上なく楽しかった

本当に、この上なんてないんじゃないか

というくらいに

 

船旅にすっかりはまったわたしは

ろくに自室に帰りもせず

わたし像のことを忘れて時を過ごした

 

帰港間近になり

荷物をまとめようというときに

わたし像がぜんぶいなくなっているのに

気がついた

同室の子たちに聞いても

知らないと言う

 

砂漠の国で降りたかもれない

南の島が気に入って住みついたかもしれない

海に飛び込んだのかもしれない

海賊に持っていかれたかもしれない

 

でもわたしのこころは

海のように広々として

楽になっていた

 

わたしがこの旅で得た

たくさんのものと同じくらい

わたし像をなくせたことは

大きな収穫だった

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

2019/10/10

「平日のオムライス屋」

本物か偽物か

はっきりさせたい

とわたしが言うとテルオくんは

へぇ、そうなんだ

とオムライスを口に入れてから言った

 

本物だと、どうなるわけ?

と言うので

本物だったら

胸張ってがんばって

生きていかれる

と答える

 

じゃ、偽物だったら?

そしたら

それでもがんばって

生きていかなきゃ

 

じゃあ別にはっきりさせなくても

いいんじゃない

それに

誰が決めるの

本物と偽物

 

どっかにいる誰か

本物がわかる人

 

それが誰か知ってるの?

 

知らないよ

 

じゃあ

はっきりさせようがないじゃない

ははは

とテルオくんは笑う

 

そうなんだけど

 

どっちでもさ

本物でも偽物でも

自分が思ったように

がんばって生きてれば

いいんじゃないの

仮にもしも

そういう判別があるとしても

もっと後から

ついてくるものかもしれないよ

 

わたしはオムライスの中にあるチーズを

フォークでのばしながら

そうなんだけどさ

とため息をつく

 

大丈夫

違う角度からみたら

みんな本物なんだから

そう信じてないと

生きていかれないんだから

ははは

とテルオくんは笑った

 

そして

でも僕はもし偽物でも

胸張って生きていくよ

と言って

もりもりサラダを食べた

 

 

(c) 2019 あわやまり

私家版「テルオくんとわたし」より

2019/10/09

「おみやげ」

たとえば

抽象的な絵

これはなんとかで

これはなんとか

ってせつめいしてくれる

 

たとえば

ちいさな石

ほら、おまめみたいに

みえるでしょ

ってじまんげ

 

たとえば

ずんぐりしたどんぐり

これね、なかに

むしがはいってるかもしれないから

きをつけてね

ってちゅういする

 

ちいさな手ににぎってくる

きみのおみやげは

毎日の中のたからもの

いつか忘れてしまっても

振り返れば ほら

目印にしてきたキレイな石みたいに

きらきらしているよ

 

 

(c) 2019 あわやまり

詩集「線香花火のさきっぽ」より

2019/10/07

「無限の雨」

空から無限()が

激しい雨のように

降ってきた

そこらじゅうに

散らばっていく無限(

 

わたしはこわくて

頭をかかえた

 

すると

 

8だと思え!

 

と声がした

 

そうだ、これは8だ

8 8 8

 

唱えていると

無限()はだんだん消えていって

一つだけ残った

自分が無限()なのか8なのか

わからなくなって

横になったり

縦になったり

している

 

手のひらに乗せてやると

やっぱり無限()の形になって

手のひらに吸い込まれるように

すっと消えた

 

 

(c) 2019 あわやまり

2019/10/05

「火傷」

久しぶりに火傷をした

水ぶくれになった

指先だったから

かなり痛い

 

何で火傷したかと言うと

炊きたてのご飯だ

あの、罪のなさそうな

つやつやしている

白いご飯

油断していたのだ

 

私は初心にかえる

見せかけや間違った思い込みで

信じすぎるのは、危険だ

 

 

 

(c) 2019 あわやまり

2019/10/01

「ラ・フランス王子」

ぼくはよく

王子みたいだね

なんて言われる

容姿も味にも品がある

ついでに値段もちょっとばかり高い

それに、なんて言ったって

香りがね

特別って感じでしょ

爽やかに甘くて

かいだだけで

くらくらする人もいるんだよ

 

香りっていうのは

人のこころに埋もれていた記憶を

ばっ、と一瞬で

思い出させたりするらしい

 

そう、だから

食べる前にかいでみてよ

ぼくの香りをさ

 

ぼくを

そして

一緒に食べた人を

また思い出せるように

 

 

(c) 2019 あわやまり

2019/09/29

「第六公園」

わたしの家に一番近い

第六公園には

ぞうとパンダの遊具があって

子どもの頃よくそれに乗って遊んだ

二頭は公園の入り口に向かって立っている

だから公園の前を通れば

いつも目が合う

 

わたしが中学生になっても

高校生になっても

雨の日でも雪の日でも

ぞうとパンダは公園にいた

たくさんの子どもたちの友達だった

 

思い出たちは

ぞうとパンダのように

わたしの中の隅っこで

いつもこちらを見ている

わたしが見ると目があって

あの頃の第六公園が現れる

 

そこにいたおばあちゃん

まだ若かった父と母

幼かったわたしと姉

砂場で作ったお団子

水飲み場で飲んだ水の冷たさ

こわくてのぼれなかったジャングルジム

ベンチの上の藤の花

つないで帰った手のぬくもり

 

 

(c) 2019 あわやまり

2019/09/28

「さようならこんにちわ」

僕の仕事は

毎日さようならをすることだ

 

夏になると

ここにはたくさんの人が来る

涼しさと休養

リフレッシュと美味しいものを求めて

 

このホテルはこじんまりしているが

リーズナブルで清潔感があると評判で

夏はほぼ満室だ

 

四泊する人もいれば

一泊で帰る人もいる

家族で来る人もいれば

ひとりで来る人もいる

荷物の多い人もいれば

少ない人もいて

毎年来る人もいれば

初めて来る人もいる

 

今日はどちらに行かれるんですか?

お天気、持つといいですね

そんな短い会話だけれど

その話の中から

その人の表情から

ストーリーを想像する

 

仲直りの旅行かな

ちょっと疲れてひとやすみかな

いつも夏の休暇かな

 

そして

お泊まりが長ければ長いほど

お帰りのときは

さみしい

行ってらっしゃいませ

と笑顔でお辞儀をするけれど

一瞬の喪失感が僕を襲う

 

この夏だけでも

ぼくは何度

行ってらっしゃいませ

つまり

さようなら

を言っただろう

 

それは毎日のなかにある

小さなさようならだ

生きていく中には

もっと大きなさようならもあるだろう

小さな

大きな

さようなら

の繰り返しで

人生は続いていく

 

でも当たり前だけれど

ここでは

誰かが去って行くと

また誰かがやって来る

いらっしゃいませ

つまり

こんにちわ

もしくは

はじめまして

それはさようならと同じくらいある

 

きっと人生も

そうなのではないか

なんて考えながら

霧がかったこの町で

僕は

今日のこんにちわの準備をする

 

 

(c) 2019 あわやまり

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