あわやまりあわやまり

詩

2019/11/16

「出会う」

この歌に出会うまで

今日までかかった

数年前に

世に出ていた

いい歌詞だって

評判だった

歌なのに

 

この本に出会うまで

今日までかかった

何十年も前に

書かれていた

有名な作家の

本なのに

 

その歌や本の来た道と

私の興味のベクトルが

偶然という場所で

決まっていたことのように

ぶつかったから

 

 

(c) 2008 あわやまり

→詩集「ぼくはぼっちです」より

2019/11/13

「夜のひと」

毎夜眠れないので

夜をめくる光景を

眺めるようになった

 

大きな 大きな

暗い闇夜で

大勢の夜のひとたちが

ゆっくり ゆっくり

一ページずつ 夜をめくる

 

今日もそれを眺めていたら

休憩で交代したのか

夜のひとが一人こちらへやってきた

 

あなた

最近ずっと眺めていますね

眠れないのなら

めくり人になりますか

 

と言われる

わたしはベッドの上に起きて

 

いいえ、大丈夫

わたしは夜のひとではないから

めくり人にはなれません

 

そうですか

夜に眠るというのは

どんなものですか

そんなにいい、ものですか

 

いい、ものです

とても大切なことです

 

じゃあ、さぞかし

おつらいでしょう

 

そうですね

 

私たちは平等に

夜をめくらなければならない

そうでないと

朝のひとに迷惑がかかって

一日が崩れていく

私がしてあげられるのは

これくらいです

 

と言って

濃い藍色のちいさな石をくれた

 

この石で頭を三回軽くたたいて

眠る時間ですよ

と言うんです

夜のひとは夜でない時

好きな時に眠りますから

まぁ、これは夜のひとがやることだから

効くかわからないけれども

 

ありがとうございます

やってみます

 

夜のひとは闇へ帰って行った

 

私は渡された石で

頭を三回たたいて

もう眠る時間ですよ

と言ってベッドに横になり

ゆっくりと 目を閉じた

 

 

(c) 2008 あわやまり

私家版詩集「いくつかの夜をめくった」より

2019/11/08

「ごそごそ道」

昔うちの裏に

空き地があって

木や雑草が

ぼうぼうに生えていた

 

そこに

ごそごそ道という道があった

 

そこはうちの人しか通らない

おばあちゃんと姉と私

あとのら猫も通っていた

 

道のないところを

ごそごそいわせながら

歩いていくから

ごそごそ道

 

その道を通っていけば

八百屋にも

クリーニング屋にも

公園にも

近道して行かれる

 

今はもう

家が建って

なくなってしまったけれど

おばあちゃんと手をつないで

ごそごそ

ごそごそ

いわせて

歩いたあの道が

まだどこかに

あるような気がするよ

 

 

(c) 2008 あわやまり

詩集「線香花火のさきっぽ」より(他の詩も読める特設ページへ→)

2019/11/06

「色とりどりの糸」

洋服のお直し屋さんに

たくさんの色の糸が

グラデーションになって

きれいに並んでいる

 

色がいっぱいあるのは

いいな

いろんな色の服が直せる

 

人生もきっとそうだな

いろんな思いをした方が

糸の色が増えて

こころの

ほつれたのや

やぶれたのを

治すことができる

 

どんな色でも

ゆっくり 時間で

糸を巻くようにして

私の中のすみっこに

置いておいて

そしてまた いつか

やぶれたりした時に

今度はそれを治すのを

手伝ってくれる

 

 

(c) 2009 あわやまり

詩集「ぼくはぼっちです」より

2019/11/03

「抹茶ソフトあんみつ」

全然わかっていなかった

とわたしが言うと

 

何が?

とテルオくん

 

だからね

たとえば人の話を聞いていて

本当に真剣に聞いて

理解しようと思って

わかったと思うの

でも実際同じようなことが

自分におきてみて

はじめて

わかったって思ったの

ああ、わかってなかったんだって

 

テルオくんはクリームあんみつの

ソフトクリームを食べながら聞いている

 

あとね

人のことを

ちょっと会っただけで

ううん、前からの知り合いであっても

なんとなくわかったように思っちゃう

でも本当は

その人のほんのちょっとしか

わかっていないんだって

わかったの

 

わたしの抹茶ソフトあんみつは

汗を流しはじめた

するとテルオくんは

 

僕なんてさ

じぶんのこと

どれくらいわかっているか

それすら わかんないよ

みんなそうなんじゃない

 

わたしはやっと

抹茶ソフトを二口食べる

 

そうかなぁ

と落ち込むわたしに

 

わかっていなかった

ってわかったことがすごいと思うけど

たいていそんなこと気にしないでしょ

まあ、溶けちゃうから食べたら

とテルオくん

 

そうかなあ

そうなのかな

なんか今日はアイスって気分じゃなかった

普通のにしとけばよかったなぁ

とわたしが言うと

 

やった、じゃあ抹茶ちょうだい

とテルオくんはわたしのお皿を

自分の方へ持っていった

 

あれ、抹茶嫌いじゃないの?

と聞くと

 

そんなことないよ

あ、ほらね

きみはまだ僕のことを

わかっていない

にしし、と笑った

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

私家版詩集「テルオくんとわたし」より

2019/10/31

「あなたがいる世界」

生まれたてのあなたを

抱いたのは暑い日だった

まだ目も見えていないあなたは

とてもちいさくて

こわれてしまいそうだった

 

あなたがいる世界では

あなたがいない世界のことを

想像するのはむずかしい

 

すこし前まで

あなたのいない世界は

当たり前だったと言うのに

 

世界は

常に塗り替えられる

だんだんと

突然に

 

そして明日は

気がつかないくらいに

全然違う世界になっている

 

 

(c) 2018 あわやまり

詩集「線香花火のさきっぽ」より

2019/10/28

「片割れ」

いろんなものを日々

なくしながら生きている

なくしたと気づくものもあれば

なくしたことさえ

分からずにいるものもある

 

一昨日イヤリングを片方落とした

とても気に入っているものだったので

使った電車の沿線にある遺失物窓口に行ってみた

イヤリングの特徴を細かく伝えると

男性の職員さんは

ちょっとお待ちくださいと言って奥へ消えた

待つこと10分

男性はプリントアウトした紙を5、6枚持って来た

 

それはこの3日間に

東京の地下鉄で落とされた

迷子のイヤリング97個の記録だった

 

誰かが

買ったばかりでうきうきと

あるいはいつものように

自分の一部として身につけ

きっと右と左が対で

そのどちらかがここに記されている

 

イヤリングたちは

暗い保管室の中でささやき合う

 

迎えに来てくれるかしら

もう一度会えるかしら

 

けれど私は

そのリストから自分のイヤリングを

見つけることは出来なかった

そこには色と素材が書かれているくらいで

自分のものだとは特定出来なかったのだ

 

そのものを見たら

すぐに分かるのに

 

きっと出逢えたら

すぐに分かるのに

 

なくしたことさえ忘れて

求め探しているのかもしれない

この入り組んだ

地下鉄のような迷路で

 

 

(c) 2017 あわやまり

2019/10/27

「海の色」

海の色の

まんまるい実を

ひとつだけつけた木があって

その実が光るものだから

みんなきれいねって眺めるけれど

あれはね

海の深さより深い

誰かの哀しみのサインなの

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

2019/10/25

「みのむし」

みのむし、と言えば

ひとつだけ思い出すことがある

 

小学校低学年のとき

わたしは体が弱く

ちびでやせっぽっちで

食も細く

給食はいかに少なく盛ってもらうかを

一番に考えているような子だった

 

そのころ

理科の宿題で

みのむしをとってくる

と言う宿題がでた

 

そのときの担任の先生は

痩せていて背が高く

女の先生で

とても厳しい人だった

 

ある時などは

校外学習でおにぎりを持参するように言われ

おにぎりだけだと言われたのに

わたしの母が漬物を添えたのを見て

おにぎりだけと言いましたよ!

と指摘するほどの人だった

 

さておきわたしは

今も昔も虫は大嫌い

みのむしなんて探すのも嫌だったけれど

早朝に母について来てもらい

やっと見つけた

ちびでやせっぽっちのみのむし

 

それで何をするのかと思ったら

みのを切って

中の虫を取り出すと言うのである

わたしはぞっとした

とても出来ないと思った

ほとんど泣きそうだった

逃げ出したかった

 

あまりにショックで

どうやってやったのか覚えてないのだけど

(たぶん誰かにこっそりやってもらったのだと思う

隣の席の男の子とかに)

何とかしてみのを切ると

中には小さなかたまりが

動かないでいた

こわいから

よく見られなかった

 

きっとそのみのむしは体が弱く

少食で大きくなれなかったのだ

 

その後

人より遅れて成長期を向かえ

周囲も驚くほどの食欲で

すくすくと大きくなったわたし

みのむしを見ると

あの宿題と先生と

ちびだったころのことを

思い出す

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

2019/10/23

「みたらし団子」

野球のユニフォームを着た少年が

みたらし団子を持っている

ここは電車の中だ

 

彼の隣には

おしゃれをした若い女性が座っている

少年のみたらし団子は

たれをたっぷりつけて

つややかだ

 

それだけに 心配だ

 

少年にたれがついてしまうのなら、仕方がない

だけれどもし、隣の女性についてしまったら

これからデートに行くかもしれない

彼女はどうするだろう

 

速やかに、食べてしまえばいいのに

その思いをよそに

少年はみたらし団子を食べようとしない

 

たまに激しく揺れる電車の中で

みたらし団子をじっと見つめ

行方を見守る一人の女のことを

食いしん坊だと

どうか 思わないで欲しい

 

 

 

(c)  2012 あわやまり

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