あわやまりあわやまり

詩

2020/01/15

「愛してる」

それが無理なら

大好きだよ、でも

それが無理なら

ありがとう、でも

 

心にある言葉を

言えるうちに

伝えたいけれど

大切にしているガジュマルに

話しかけるようには

いかなくて

 

言おう言おうと思って

やっと言えるのは

一日の最後の

おやすみ

くらい

 

 

(c) 2018 あわやまり

→詩集「線香花火のさきっぽ」より

2020/01/13

「信号待ち」

信号待ちのとき

 

動いているのかな

とテルオくんは空を見て言う

 

なにが?

 

あれだよ

あの赤いの

 

ビルの上に大きな赤いクレーンがある

よく見ても

動いているかはわからない

 

わからないね

大きいからね

 

そうだね

わかんないね

とテルオくん

 

信号は赤のまま

だんだん待つ人が増える

 

ぼくらは動いているのかな

 

今は止まってるじゃない

と少し笑ってわたし

 

そうじゃなくて

ぼくらが動いているのか

なにかもっと大きなものの中にいて

それが動いているのか

 

う〜ん

みんなも動いていて

それが全体として大きく

動いているんじゃないの

 

そうかなぁ

ぼくの意志でなく

流れの中にただいるような

感じなのかもしれないよ

 

ピン

信号が青になる

 

さ、まずは渡ろう

少なくとも今は

動いている、んじゃない?

 

とわたしがテルオくんの

背中をポンとたたくと

 

はは、ま、そうだね

とポリッと指先で頭をかいて

行こう

とテルオくんも歩きだした

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

2020/01/11

「目の前のおじさん」

空いている電車で
私の前に座るおじさん
リュックを抱え
目をつぶっている

 

おかげで
私が泣いていることには
気がつかないようだ

 

じっとしていて
動かないし
よく見ていると
悟ったような顔をしていなくもない
穏やかな顔をして目を閉じており
神か仏の化身かもしれない

 

もしかしてこのおじさんは
私の全てを知っていて
泣きなさい
と無言で
言ってくれているのかも

 

おじさん
と心の中で呼びかけた時
おじさんは目を開け
素早く電車を降りて行った

 

神か仏か、人間かもしれないけれど
私を許してくれているように

思えた

 

 

(c) 2018 あわやまり

2020/01/08

「トイレに書かれていたもの」

あるトイレの

トイレットペーパーの上に

『本来の目的以外には使用しないこと』

と書いてあった

 

トイレを出て

階段を降りて

駅へ向かって

電車に乗って

本来の目的について

考える

 

電車に乗っている人たちを

ひそかに、見回す

 

たぶん、みんな

トイレットペーパーの

本来の目的は分かる

 

けれども

例えば、みんな

自分自身の本来の目的

というものを

知っているのだろうか

 

 

 

(c) 2010 あわやまり

2020/01/05

「終わりと始まり」

終わりの後には

なにかしらの始まりがあって

始まりの後には

遅いか早いか分からないけれど

終わりがある

数え切れないそれらを

一生のうちに何度も繰り返して

生きている

 

そしてだんだん

慣れてしまうのかもしれない

小さな終わりには

気づかず

静かな始まりも

見過ごしてしまう

そうしないと

生きていかれないことだってあるけれど

 

やっと今

少しわかるのは

終わりは悲しいばかりではない

ということだ

その後に、ほとんど絶対

始まりがくるのは決まっている

それが来て欲しいものかどうか

分からないけれど

そうやってこの世界は

ずっと続いて来た

この星が生まれてから

ずっと

 

 

(c) 2019 あわやまり

2020/01/03

「風と糸と凧」

各駅停車の電車が止まった駅で

川辺をながめる

凧あげをしている

 

強すぎない風をうけて

遠い地上と細い糸でつながりながら

あんなに高く飛んでいる

 

風も糸も大切だけれど

凧自身がなければ

あんなに高く

飛べはしない

 

それはなにかに

似ているような気がして

考えようとしたら

電車は動き出した

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

2019/12/29

「足音」

寒くなったので

夏のスリッパから

もふもふしていて

中側があたたかいスリッパに変えたら

 

やっぱり音が違いますね
と言われた

 

よろこびも
かなしみも
良い予感も
嫌な予感も
きっとそれぞれ
違う足音をたてて
近づいてくるんだろう

 

それを聞き分けられるほど
私の耳は
良くないのだろうけれど
今だって、きっと

 

 

(c) 2019 あわやまり

2019/12/27

「冬の青空」

雲ひとつなく澄んだ青空の下の

長い上り坂の一番上にある

大きな家に住んでいるおじいさんの

空を見上げる目は澄んでいて

青空の向こうを見ている

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

2019/12/24

「クリスマスのカピパラ」

カピバラは片想いをしていた

少し年上の先輩は

職場が同じだし

今はただ見ているだけで幸せだった

 

少し前に人気を博したカピパラも

最近はさほどでもない

まだ学生だった頃は

カピバラだというだけでモテた

彼氏もいたけれど

元々おとなし性格で

一人でいるのが好きなので

あまり長くは続かなかった

 

それに

スキンシップをとるようになると

どの彼氏も言うのが

きみ、見かけより毛が固いんだね

と言うことで

それがカピバラのコンプレックスになった

確かにカピバラの毛は

うさぎのそれよりも固いらしかった

でもそんなこと

カピバラのせいではない

撫でていて気持ちよくない

と言うのが最もだとしても

 

そんなわけで

カピバラは片想い中の先輩に

毛を触られないように気をつけた

片想いの間だけでも

夢をみていたいのだ

先輩は時々

後輩の女の子(自分と同期だ)の頭を

ポンポンとすることがある

あれをやって欲しい気は満々だが

やはり毛が心配だった

 

年末の忘年会で

先輩と同じテーブルになった

いつも口数のすくないカピバラだが

恥ずかしくてもっとしゃべらなくなる

あの同期の女の子も同じテーブルだった

話はクリスマスも目前

みんなの予定は?という話だった

先輩は

僕は気になる子と

イルミネーション見に行くんだ

と言った

そのとき同期の女の子が

恥ずかしそうに笑ったのには気がつかず

盛り上げ役の男の子が

えー、まじっすか

誰と行くんですか〜

どんな子タイプなんですか?

と聞くと先輩は

えっと、誘うのはまだなんだけど

ほぼほぼね

やわらかい感じの子だよ

そう言われて

カピバラは敏感に反応した

 

やわらかい感じ

私だって心はやわらかだわ

自分に質問が回って来た時

動揺もしていたからか

ええ、今年も彼と温泉に

なんて言ってしまったカピバラ

 

社内のうわさ話で

先輩と同期の女の子が付き合っていると

耳にするのは間もなくだった

 

クリスマス

カピバラは月一のご褒美として行く

温泉施設に来ていた

ここで一ヶ月の疲れと

失恋の痛みを洗い流すのだ

温泉につかり

美味しいものを食べ

温泉につかり

甘いものを食べ

夜景をみる

 

施設の浴衣をまとい

夜景を見ながら

来年は有言実行

好きな人と一緒にイルミネーションを見るぞと

心に決めたカピバラだった

 

 

 

(c) 2016 あわやまり

2019/12/22

「大きくなったね」

子どもが

大きくなることの

なんて早いことだろう

こないだ

小学生だった親戚の子が

もう大学四年生

すっかり大人の女性になっていた

 

大きくなったね!

つい、言ってしまう

わたしもかつて

よく言われたなあと思い出す

 

大きくなったね

もうそんなになったの!

驚きに満ちた声で

 

その度

どうして大人は

おんなじことばっかり言うんだろう

と思っていた

 

でも間違いなく言えることは

大きくなったね

と言う言葉には

よくがんばって大きくなったね

元気でいてくれて嬉しいよ

なんてことが

きっと

込められていると言うこと

 

だからどうか

子どものみなさん

もう十分大きくても

誰かの子どもであるみなさん

大きくなったね

もうそんなになったの!

と言われても

またか

と思わずに

はい、こんなに大きくなりました

なんて誇らしく

思ってくださいね

 

そうして元気に生きていてくれること

それが喜びでもあり

願いでもあります

 

 

 

(c) 2018 あわやまり

ページの先頭へ

ページの先頭へ