あわやまりあわやまり

詩

2019/10/01

「ラ・フランス王子」

ぼくはよく

王子みたいだね

なんて言われる

容姿も味にも品がある

ついでに値段もちょっとばかり高い

それに、なんて言ったって

香りがね

特別って感じでしょ

爽やかに甘くて

かいだだけで

くらくらする人もいるんだよ

 

香りっていうのは

人のこころに埋もれていた記憶を

ばっ、と一瞬で

思い出させたりするらしい

 

そう、だから

食べる前にかいでみてよ

ぼくの香りをさ

 

ぼくを

そして

一緒に食べた人を

また思い出せるように

 

 

(c) 2019 あわやまり

2019/09/29

「第六公園」

わたしの家に一番近い

第六公園には

ぞうとパンダの遊具があって

子どもの頃よくそれに乗って遊んだ

二頭は公園の入り口に向かって立っている

だから公園の前を通れば

いつも目が合う

 

わたしが中学生になっても

高校生になっても

雨の日でも雪の日でも

ぞうとパンダは公園にいた

たくさんの子どもたちの友達だった

 

思い出たちは

ぞうとパンダのように

わたしの中の隅っこで

いつもこちらを見ている

わたしが見ると目があって

あの頃の第六公園が現れる

 

そこにいたおばあちゃん

まだ若かった父と母

幼かったわたしと姉

砂場で作ったお団子

水飲み場で飲んだ水の冷たさ

こわくてのぼれなかったジャングルジム

ベンチの上の藤の花

つないで帰った手のぬくもり

 

 

(c) 2019 あわやまり

2019/09/28

「さようならこんにちわ」

僕の仕事は

毎日さようならをすることだ

 

夏になると

ここにはたくさんの人が来る

涼しさと休養

リフレッシュと美味しいものを求めて

 

このホテルはこじんまりしているが

リーズナブルで清潔感があると評判で

夏はほぼ満室だ

 

四泊する人もいれば

一泊で帰る人もいる

家族で来る人もいれば

ひとりで来る人もいる

荷物の多い人もいれば

少ない人もいて

毎年来る人もいれば

初めて来る人もいる

 

今日はどちらに行かれるんですか?

お天気、持つといいですね

そんな短い会話だけれど

その話の中から

その人の表情から

ストーリーを想像する

 

仲直りの旅行かな

ちょっと疲れてひとやすみかな

いつも夏の休暇かな

 

そして

お泊まりが長ければ長いほど

お帰りのときは

さみしい

行ってらっしゃいませ

と笑顔でお辞儀をするけれど

一瞬の喪失感が僕を襲う

 

この夏だけでも

ぼくは何度

行ってらっしゃいませ

つまり

さようなら

を言っただろう

 

それは毎日のなかにある

小さなさようならだ

生きていく中には

もっと大きなさようならもあるだろう

小さな

大きな

さようなら

の繰り返しで

人生は続いていく

 

でも当たり前だけれど

ここでは

誰かが去って行くと

また誰かがやって来る

いらっしゃいませ

つまり

こんにちわ

もしくは

はじめまして

それはさようならと同じくらいある

 

きっと人生も

そうなのではないか

なんて考えながら

霧がかったこの町で

僕は

今日のこんにちわの準備をする

 

 

(c) 2019 あわやまり

2019/07/07

「もう糸は結ばれた」

誰にも必要とされていない

と思うとき

どこかで誰かが

誰かを心から愛したい

と願っている

 

その想いだけは

風に乗って行って

空で手を握り合って

よし、私たち

きっといつか会おう

なんて約束している

きっとね

 

 

(c) Mari Awaya 2019

2019/06/27

「もしかしたら」

わたしたちは

あらゆる感情というものを

生まれる前から知っている

けれど

この世に生まれるときに

それをすべて忘れてしまう

 

だから

生きながら

いろいろな感情を持ち

もう一度

知っていくのかもしれない

 

つまり

こんな感情を

抱いたことが

はじめてなのに

せつないほど

くるしいほど

なつかしいのは

そういうことなんじゃ

ないだろうか

 

 

(c) Mari Awaya

私家版「夜になると、ぽこぽこと」より

2019/05/06

「記憶クッキー」

初めて来た町を歩いていて

疲れきったところに

小さな洋菓子屋さんを見つける

今日はぐるぐると知らない道を歩き

足は痛いし腰も痛いし

くたくただ

 

丸いテーブルがふたつ

そのひとつに座った

紅茶しか頼んでいないのに

それを飲んでいると

パティシエらしいおじさんがやって来て

 

クッキー、よかったらどうぞ

とクッキーを二枚乗せた

小さなお皿を置いて行った

 

そのクッキーを

ひとくち、ふたくち食べ

一枚食べ終えると

何か忘れていることがあるように

思い始めた

もう一枚食べると

その思いは一層ふくらんで

何を忘れているのか

一生懸命考えるが

思い出せそうにない

 

紅茶もなくなって

あたりも暗くなってきて

お会計をしようとした時

焼き菓子のところに

「記憶クッキー」

と言うのが並んでいた

 

さっきのおじさんが

レジに立っていたので

 

あの、このクッキー

さっきいただいたのですか?

と聞くと

 

いや、あれはちょっと違うのです

まだ試作中のものでして

と微笑む

 

この、記憶クッキーって

どんな味ですか?

と聞くと

 

それはですね

全部食べ終えると

欲しい記憶が

自分の中に蘇るんです

生まれる、と言っても

いいかもしれません

つまり

本当に体験したことでも

そうでなくても

自分の中にね

 

そんなこと

あるんですか?

 

ええ

例えば、その記憶があるから

元気に

自信を持って

前を向いて

生きて行かれるようになる

みたいなことです

 

本当に?

 

本当かどうかは

どうぞご賞味ください

と微笑む

 

私は記憶クッキーを

一袋買った

 

その洋菓子屋さんの場所を

誰にも教えていない

何度かあの町に行っては

探したけれど

見つけられなかったのだ

私は今でもたまに

あの町に行っては探している

「記憶クッキー」を売っている

洋菓子屋さんを

 

 

(c) Mari Awaya 2019

2019/03/19

「着陸」

着陸しようとする飛行機
ノイズの混じった
画面に映し出される
滑走路

 

そこに向けて
まっすぐ
降り立とうと
高度を下げていく

 

きっと
わたしが生まれてくるときも
こんな感じに
どこからか
なにかを、目印に
なにか、使命を持って

確かに
この世界に
降り立ったのだと思う

 

 

(c) Mari Awaya 2019

秋美Vol31より

2019/03/03

「かみ」

かみをかいにいく

しをいんさつするために

かみはおもたい

ずっしりと、おもたい

ビニールぶくろもやぶれそうだ

 

それにしをいんさつする

なおしてはまたいんさつする

それがかさなりかさなり

さんじゅうさつめのファイルに

なるころだ

 

これをだれがよむんだろう

これをだれがよんでくれるんだろう

とおもいながらも

わたしはきょうも

かみにしをいんさつして

ファイルにとじる

 

ふかくじつなせかいで

たしかなたいせつなものが

じぶんがしんじているものが

そこにあるんだと

じぶんをあんしんさせるように

だれかにとどくように

いのりながら

 

(c) Mari Awaya 2019

「秋美」vol.31より

2018/12/31

「ただひとりのわたし」

あのときの

秘密を打ち明けてくれた

一緒に星を眺めた

あなたは

もういない

 

あのときの

嬉しくてどきどきして

星に祈っていた

わたしも

いないのだから

 

この世界で

時が経つことの

なんと理不尽なことか

なんと有難いことか

 

たった今

世界でただひとり

人生でただひとりの

わたしは

一秒前のわたしに

キスをして

ありがとうを言う

 

詩集「線香花火のさきっぽ」より

(c) Mari Awaya

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