あわやまりあわやまり

詩

2020/03/04

「暗い道のひみつ」

・・・・・・・・・・(黄色い家の赤い車・作)

 

このあいだ僕は見てしまった

ちょうど日が暮れて

色んな家の色んな夕飯のにおいが

優しく皆の帰りを待っている頃

 

誰も通っていない道の

電信柱がこう

一回腰をかがめて

そうしてから

今度は反対にそって伸びをした

 

僕はとても驚いて

隣の家の寝ている車に

教えてやろうかと思ったけれども

確かによく考えてみると

電信柱だって四六時中ああやって

まっすぐ立っていなきゃならないのだから

たまに伸びをするくらい

してもいいものだと思った

 

この話がみんなの暇つぶし程度の噂になるのは

ちっともいい気分がしなくて

僕は誰にも言わないことに心に決めて

じっとしていた

その電信柱はすでに

僕よりもじっとしているようだった

 

 

(c)2004 あわやまり

「へその中の話たち -冷たい風が運んだ話-」

2020/02/09

「シルシルとみかこさん」

黄緑の細い草の

小さいぼんぼんのような

ひげのシルシルが

道端で何匹かうろうろしている

最近よくシルシルを見かけるけれど

今年になって初めて出会った

 

どこいったの

どこいったの

どこいけばいいの

どこいけばいいの

どうしたらいいの

どうしたらいいの

 

みんなで反復する

 

どうしたの?

とかがんで話しかけたら

その中でも動きの遅い子が

 

どこいけばいいか

わからないの わからないの

 

迷子なの?

と聞くと

 

まいごって なあに?

と言うので

 

えっと

一緒にいた人とはぐれてしまったり

行く道が分からなくなることかな

 

まいごだ

ぼくたちまいご

ずっとついてきたひとが

どこにいるかわからない

そのひと

どこにいけばいいか わからない

どうすればいいか わからない

そういってた

 

じゃあ、その人も

迷子になっちゃったのかな

そう言うと

 

まいご どうすればいいの?

どうすれば いいの?

と聞くので

 

その人ってどんな人なの?

と聞くと

 

ミカコさん

いいにおい

おーえる

コンカツしてる

 

わたしは困ってしまって

 

そうか、どうしようね

とりあえずうちの庭に来る?

と聞くと

 

みかんのき ある?

と言うので

 

ないけど、みかんあるよ

と返すと

 

じゃあ いくいく

みんな このひと

みかんあるって

いこう いこう

 

そしてひげのシルシルたちは

ぞろぞろとわたしの庭にやって来た

ミカコさんがどこに行ったかは

分からないまま

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

→詩集「夜になると、ぽこぽこと」より

2020/02/02

「噴水に住む妖精」

水の薄い膜を作って流れる

公園の噴水

晴れた日には

虹が見えることもある

 

その中に住んでいる妖精は

ちいさくて美しい

 

彼女は噴水の中から見る景色

ぼやけてよく見えない

でもなんだか

きれいに見えるものたちを

現実だと思っていて

噴水が止まって

そこから出て見る世界は

夢だと思っている

 

だから人間も

夢の中の生き物だと思っていて

いつもベンチで本を読んでいる彼のことも

逢えない人に恋をしてしまったのだと

思い込んで悲しんでいる

 

 

 

(c) 2011 あわやまり

2020/01/31

「裏山のマーシー」

裏山のマーシーが

最近ちょくちょく

わたしの家にやって来て

わたしの部屋にまで入って来る

しっぽのみじかい

出っ歯で

ちゅうくらいのねずみみたいなの

 

保健所に電話すると

 

マーシーはこちらではどうにも

巣を作ったわけではないんですよね?

悪さもしていないと

区役所に相談したらいかがですか

 

そう言われて

区役所に電話すると

 

マーシーですか、裏山のね

巣を作ってないのなら

こちらとしてはなんとも

あ、マーシーを研究している方が

この地域にいらっしゃいますので

ご相談してみては

と言われる

 

早速マーシーを研究している人に

電話をする

 

すると予想に反して

研究者は女性だった

 

最近裏山のマーシーが

わたしの部屋にまで入って来て

そこで眠ってしまったりするんです

なんだかマーシーがいると

ため息が出るような

すべてに ずーんと

わたしだけ

おいていかれる

気持ちになるんです

とわたしが説明すると

 

そうですか

と落ち着いた優しい声の研究者は答える

私が言えることは

あなたのやりたいことを

夢中にやってください

ということです

もしやりたいことがわからなければ

あっちこっち手を出してみて

 

あの

わたしはマーシーのことで

相談しているんですけど

 

わかっていますよ

裏山のマーシーは

あなたが変われば

来なくなります

来ても庭を通り過ぎるくらい

私は裏山のマーシーを

もう何十年も研究しています

あなたがあなたを大好きになれば

マーシーは来ないわ

と研究者は言い切った

 

わたしは

わかりました

とよくわかっていなかったけれど

言ってから電話を切った

 

その夜

マーシーは来なかった

わたしは

 

わたしはわたしが好き…

 

消えそうな声で言ってみて

目を閉じた

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

詩画集「夜になると、ぽこぽこと」とより

2020/01/28

「星のにおいのパジャマ」

初めて行った町で
待ち合わせまでの時間
ぶらぶらしていると
かわいらしい雑貨や洋服のお店をみつける

 

かわいいワンピース
と思って手に取ると
ピンで止めてある小さな説明書きに

 

「星のにおいのするパジャマ」
半永久的ににおいは消えません。
夜もぐっすりです。

 

と書いてあって
あ、これパジャマなんだ
しかも星のにおいってどんなだろ
と思ってかいでみると
あ、そういえば星のにおいってこんなんだ
とかいだことはないはずなのに思いだして
かわいいし
星のにおいだし
ぐっすり眠りたいし
買うことにした

 

帰って注意書きを読むと
何度洗濯してもにおいは消えませんが
太陽に長時間あてるのは避けてください
とある

 

あ、お日様のにおい
ついちゃうからかな
と納得し
早速パジャマを着て
ベッドに入る

 

ぐっすり眠れるかどうかは
是非一度
お試しを

 

 

(c) 2009 あわやまり

詩集「忘れる星」より

2020/01/23

「怖いのとんでけ頭巾」

私の行きつけのレンタルビデオ屋は

すこし変わっている

ビデオ、DVD、CD、本、ゲーム、マンガ

貸し出しはシステムも料金も普通

 

ただ店内にはいつも

香水おばさんがいる

香水おばさんはお客から注文されると

手持ちのにおいを調合して香水を作る

だから香水おばさんのブースには

においのサンプルがいくつもあって

店内はいつも香水くさい

 

それから

「怖いのとんでけ頭巾」が置いてある

これは初め子ども向けに作られたもので

怖い映画を観てしまった後

怖いのがずっととれない子の

頭の中にある怖いシーンを

溶かしてしまうというもの

形は防災訓練で使う防災頭巾に似ている

それを怖いシーンを思いだしながら

十分くらいかぶっていればいいのだ

するとだんだん思い出せなくなって

溶けてしまう

誰が作ったのか定かでないが

この店の店長の知り合いに

発明をしている人がいると聞いたことがある

 

この頭巾を最近は大人も使いはじめた

大人でも映画が怖いからだと思ったが

そうでない人もいるらしい

昼間買い物帰りの主婦や

夕方学校帰りの高校生

夜遅くに帰ってきた会社員と思われる男性

いろんな人がコンビニに寄るように来ては

頭巾をかぶっていく姿を見かける

どうやら

日常の中にある怖いシーンや

怖いという思いさえも

頭巾は溶かしてくれるらしい

目をつむって眉間にしわを寄せていたのが

安心したように穏やかな表情に変わっていく

 

こわいの とんでけー

こわいの とんでけー

こわいの とけて とんでいけー

 

いつか私もやってみようかと思いながら

今日は笑顔のかわいい女優が出ている

青春映画を借りて帰った

 

 

 

(c) 2007 あわやまり

詩画集「ぽちぽち、晴れ」より

2019/12/17

「涙プリンセスとヒラメ係長」

駅の改札を出たら

声をかけられた

振り返っても誰もいない

 

こっちです

と下から声がする

足元になんだか風を感じて

下を見るとヒラメがいた

 

あなたを今年の

「涙プリンセス」に決定しました

つきましては広報誌に載せたいので

インタビューをよろしいですか?

 

わたしはびっくりして

でもまずしゃがんで

 

えっと、すみません

なんですか?「涙プリンセス」って?

 

するとヒラメは

まばたきを一つして

ええ、わたくしどもは

この駅のホームで

お客様がこぼされるため息や

おとされる涙を

人知れず食べているのです

年々わたくしどもが増やされているのには

ため息や涙が増えてきているから

なんですね

あ、ちなみにわたくしは

下りのホームをまとめています

ヒラメ係長です

とヒラメは言う

 

それで?

とわたしが解せない顔をしていると

 

あ、失礼しました

それで今年から

何か楽しいことに役立てたいと

この沿線の会社からのお達しで

この一年で一番たくさん

ため息をこぼした「ため息キング」

涙をおとした「涙プリンセス」

を探して表彰し

広報誌にもコメントをいただこうかと

 

わたしはあきれて

そんなのいやです

それ嬉しくないですよ

表彰されても

失礼します

 

わたしが立ち去ろうとすると

 

ああ、すみません

ちょっとお待ちを

ヒラメは水もないのに

す〜と近づいてくる

写真やお名前などは載せません

一言だけでも

もう決まったことゆえ

上がうるさくて

「ため息キング」はくださいましたよ

 

わたしは立ち止まって聞く

ため息さんはなんて?

 

「ため息をつくのは、駅だけと決めています。

キングになれて複雑な気分です。

来年はもっと明るい賞を作った方がいいですよ。」

 

ほら、やっぱり

変ですよこんなの

とわたしが言うと

 

でもわたくしが決めたことではなく

わたくしも日ごろは

ため息と涙を食べている

しがないヒラメなんです

と言い返され

ヒラメの上下関係なんかを思ったら

少しかわいそうになり

ふーっと息を吐いてから一気にしゃべった

 

「プリンセスになったのは初めてですが、

駅で泣くとすっきりして家に帰れます。」

これでいい?

 

ヒラメ係長は

ありがとうございました

あの〜、それで

お名前などはもちろん載せませんが

何かニックネームのようなものを

お願いしたいのですが

 

勢いがついたわたしは少し考えて

「なにもかもが蜃気楼」

と答える

 

結構でございます

お時間をとらせてすみませんでした

広報誌と賞状は改めてお渡しします

では

と言ってヒラメ係長は

す〜と急ぎ気味に

わたしから離れて行った

 

バスロータリーに向かいながら

はじめての 涙プリンセス 蜃気楼に泣く

とつぶやいた

 

 

(c) 2010 あわやまり

私家版詩集「今日、隣にいたひと」より

 

詩集「記憶クッキー」はこちらから→

2019/11/26

「忘れてしまった約束」


他の目をたいそう気にする星がいて
私は他の星より輝いているかしら
もっときれいに光れないかしらと
磨き職人をやとって
自分を丸ごと磨かせた

 

でも自分では
どのくらい輝いているのか分からない
職人のうちのひとりを
いつも見える青い星へと向かわせた

 

あの星へ行って
私がきれいに光っているか
確かめてきてちょうだい
きれいに光っているのなら
私に向かって
あなたはどの星よりもきれいです
と教えてちょうだい
そうしたらあなたにだけ
とびきりのご褒美をあげます

 

職人は青い星へ向かった
けれども思いのほか遠かった
星に着いた頃には年をとっていた
そしてこの星に
何をしに来たのかを
忘れてしまった

 

年をとった職人は青い星で
よく星を見上げた
ことさらきれいに光る星を見ては
何か忘れていることがある気がしたり
その星の瞬きが
何か言っているように見えたりした

 

とびきりのご褒美がなんだったのか
今でも分からない

 

(c) 2008 あわやまり

詩集「忘れる星」より

2019/10/17

「だいだいあめ」

窓ガラスに夕焼けが

ぽっちゃり丸く

うつる列車があります

その列車は夕方にしか走りません

走ってすることは

だいだいあめを集めること

ガラスにうつった夕焼けが

ぽろんぽろんと

落ちてくるのを集めるのです

 

私達は一生に三回

そのあめだまを食べられます

食べたい時は

「だいだいあめだまセンター」に

三枚つづりの券を一枚切って

封筒に入れて送ります

この券はパスポートやなんかと一緒にして

大切にしておきます

 

最近体調も悪く心も元気がないので

初めてあめだまを送ってもらいました

あめだまを送ってもらうのは

人生最大の失恋をしたときとか

つらい病にかかったときとか

未来に希望がもてなくなったときとか

人それぞれです

 

ある人はこのあめだまを

何度も食べられたらいいのにと言います

けれどもこれは万人に平等に

一人三回と決まっています

 

券を送って三日後

小さい箱に入った郵便物が届きました

開けると白い綿の中に

ビニールで包んだだいだいあめがありました

私はそっとつっついて

それからつまんでビニールを破いて

かすかに光っているように見えるそれを

ぱくっと口の中に入れました

それは熱をもっているようで

舌の上でしゅわぁっと溶けました

 

これで悪いところは全て治る

とは思わずに

私の中に小さな太陽ができて

それが元気に導いてくれたらいいと思うのです

 

なくなってからも胸の辺りに

温かい感じが残っていました

 

 

 

(c) 2007 あわやまり

詩画集「ぽちぽち、晴れ」より

2019/10/14

「わたし像」

船で世界へ旅に出ようとした

あのころ

わたしは欲しいものを

なにも持っていないのに

「こうでなければいけないわたし像」を

何体も持って旅に出た

 

重くて ときに

私を押しつぶそうとするその像たちを

置いてきたくとも

置いてはこられなかった

 

同室の子たちは

狭いベッドの脇に並んだ

わたし像たちを見ると

たくさんいるんだね

でもよくできてる

これなんて

あの女優に似てるね

などと言った

 

十九の点を線でつないでいくような旅

様々な文化の国

出会った人々

語り合える友達

広い海

ものすごい数の星

 

旅はこの上なく楽しかった

本当に、この上なんてないんじゃないか

というくらいに

 

船旅にすっかりはまったわたしは

ろくに自室に帰りもせず

わたし像のことを忘れて時を過ごした

 

帰港間近になり

荷物をまとめようというときに

わたし像がぜんぶいなくなっているのに

気がついた

同室の子たちに聞いても

知らないと言う

 

砂漠の国で降りたかもれない

南の島が気に入って住みついたかもしれない

海に飛び込んだのかもしれない

海賊に持っていかれたかもしれない

 

でもわたしのこころは

海のように広々として

楽になっていた

 

わたしがこの旅で得た

たくさんのものと同じくらい

わたし像をなくせたことは

大きな収穫だった

 

 

 

(c) 2009 あわやまり

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