2017/11/06
元気のないとき
「月にひっかかった涙」
夜にうかぶ細い月に
私の涙がネックレスになって
ひっかかっている
いつ、ネックレスなぞに
なっただろう
昨日の涙は
たくさんあったから
長い長いネックレスになって
風をうけて
ゆらゆらしている
それにしても
月明かりを浴びて
キラキラしてきれいだ
哀しい涙だったのに
こうやって
見上げる人の中に
もし泣いている人がいたなら
ネックレスに涙つなげよう
一緒に月にひっかけておこう
次の新しい月が出る頃には
ほほえんで見上げられるように
今は、泣いておいて
© Mari Awaya 2014
「夢ぽけっと2014春号」より
2017/11/05
元気のないとき
「ねぇ、ちょっと聞いて」
焦らなくていいよ
遅刻するんじゃないんだから
みんなと同じでなくてもいいよ
ここは学校じゃない
こうでなきゃいけないなんてないよ
縛らなくていい、もっと自由でいいよ
忘れているかもしれないけれど
もう自分で決めて、いいんだよ
(c) Mari Awaya 2013
2017/11/03
元気のないとき
「胃カメラを飲んだ」
わたしの胃は
きれいだった
つるんとして
この激痛のかけらも
見つからなかった
不思議なもんだ
人のからだって
皮肉なもんだ
またストレスだって
言われちゃって
ストレスってのは
ほんとうに
あなどれない子だな
目立つわけでもないのに
確実に
じわじわと
わたしのからだに
サインをおくって
「私に気づいて」
って言う
(c) Mari Awaya 2012
私家版「わたし、ぐるり」より
2017/11/03
元気のないとき
「すのこ」
保育園に
まだ姉も一緒に通っていたある朝
姉は自分のお部屋に行ってしまって
さびしくて
わたしはひとり
お外の靴箱のところの
すのこの上に座って
おねい~
と泣いていた
わたしの中の
ちいさなわたしが
今でも
すのこの上に座って
だれかを
呼んでいる
(c)mari awaya 2009
私家版「あの星から見える、うちの明かり」より
2017/11/03
元気のないとき
「雨」
夜中
眠ろうとするとき
次の日に
出かける予定のないとき
雨が
ポツ ポタ ポツリ
と降ってくると
安心する
雨の中
わたしは布団の中で
そこは
やわらかに守られていて
安全だ
*
昼間
家で何もしていなくて
雨が
ザア ザア サー
と降っていると
不安になる
雨の中
わたしはひとり
ここに
取り残されているようで
迎えに来てほしくなる
じぶんの家なのに
(c) Mari Awaya 2010
私家版「あの星から見える、うちの明かり」より
2017/11/03
元気のないとき
「深海」
今は
海 深いところで
貝の中に入って
深く 深く
眠りたい
何年か
何百年かたったら
あなたが貝をたたいて
起こしてくれる?
そのときには
本来の私になって
元気になって
でていくから
(c) Mari Awaya 2009
手製本「不思議ないきもの」より
2017/11/03
元気のないとき
「マグネット」
ベッドの上に
うつ伏せで
まるく
ちいさく
卵のようになって
地球にくっつく
小さなマグネットのよう
くっついていられるのは
生きている
私があるから
(c) Mari Awaya 2008
手製本「いくつもかの夜をめくった」、詩集「ぼくはぼっちです」より
2017/11/03
元気のないとき
「Pancake!」
お好み焼きを焼くというので
私はホットケーキが食べたいと
ちょっと気取って
英語で言ったら
間違えて
I want to be a pancake!
私はホットケーキになりたい!
と言ってしまった
でもホットケーキは
ふわふわで温かくて
嫉妬も悲しみも
含んでいないだろうから
私はホットケーキに
なってもいいな
(c) Mari Awaya 2008
手製本「氷のラブレター」、詩集「あなたに好き、と言う以外は」より