あわやまりあわやまり

詩

2020/01/31

「裏山のマーシー」

裏山のマーシーが

最近ちょくちょく

わたしの家にやって来て

わたしの部屋にまで入って来る

しっぽのみじかい

出っ歯で

ちゅうくらいのねずみみたいなの

 

保健所に電話すると

 

マーシーはこちらではどうにも

巣を作ったわけではないんですよね?

悪さもしていないと

区役所に相談したらいかがですか

 

そう言われて

区役所に電話すると

 

マーシーですか、裏山のね

巣を作ってないのなら

こちらとしてはなんとも

あ、マーシーを研究している方が

この地域にいらっしゃいますので

ご相談してみては

と言われる

 

早速マーシーを研究している人に

電話をする

 

すると予想に反して

研究者は女性だった

 

最近裏山のマーシーが

わたしの部屋にまで入って来て

そこで眠ってしまったりするんです

なんだかマーシーがいると

ため息が出るような

すべてに ずーんと

わたしだけ

おいていかれる

気持ちになるんです

とわたしが説明すると

 

そうですか

と落ち着いた優しい声の研究者は答える

私が言えることは

あなたのやりたいことを

夢中にやってください

ということです

もしやりたいことがわからなければ

あっちこっち手を出してみて

 

あの

わたしはマーシーのことで

相談しているんですけど

 

わかっていますよ

裏山のマーシーは

あなたが変われば

来なくなります

来ても庭を通り過ぎるくらい

私は裏山のマーシーを

もう何十年も研究しています

あなたがあなたを大好きになれば

マーシーは来ないわ

と研究者は言い切った

 

わたしは

わかりました

とよくわかっていなかったけれど

言ってから電話を切った

 

その夜

マーシーは来なかった

わたしは

 

わたしはわたしが好き…

 

消えそうな声で言ってみて

目を閉じた

 

 

 

(c) 2014 あわやまり

詩画集「夜になると、ぽこぽこと」とより

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