あわやまりあわやまり

詩

2020/01/19

「リスのさみしさ積立て」

リスは蓄えておくのが得意だった

食料もストックはたくさんあって

トイレットペーパーやゴミ袋も

何ヶ月も持つほど家にある

 

リスは蓄えたものを

綺麗に収納するのも得意だった

そうしてあると安心する

けれど何年も前から

安心とは程遠い気持ちが

心にあるのに気がついていた

 

それが

淋しい

という感情だと分かった瞬間

なんだか少し安心したのだった

 

そんなとき

「さみしさ積立て」

を友人に勧められた

 

ほら「さみしい」をそのままにするの

嫌じゃない?

だから始めたの

積立てればそれが仮想通貨みたいになって

投資できるんだよ

 

リスはちょっとあやしいとは思ったが

どうせお金をかけるわけじゃないし

なにより蓄えることが好きなので

始めることにした

 

「さみしさ」は

契約時にもらう時計のようなもので測る

それが自動的に投資会社に送られて

毎月の「さみしい度」の数値が出る

他のひとと比べたことがないので

自分の「さみしい度」が多いのかどうか

リスには分からなかった

でも毎月貯められていく「さみしさ」が

何かいいものに変わればと期待していた

 

けれどしばらくして

「さみしさ積立て」が違法だとニュースになった

結局詐欺みたいなことだった

最初に借りた「さみしい度」を測る時計を

投資に切り替えるタイミングで

高額に買い取らせていたらしい

リスはその前だったから被害はなかった

 

でもなんだかやりきれない気持ちになった

 

淋しい気持ちを貯めたりなんかして

どうにかできるなんて

あるはずないのに

 

そんなとき田舎から小包が届いた

とうもろこしやお米が入っていて

手紙も入っていた

 

元気にしていますか?

ちゃんと食べていますか?

こないだりっちゃんの赤ちゃんに会いに行って来ました

あなたもいい年なのだから

結婚のこともちゃんと考えてね

母より

 

リスは静かに泣いた

誰もいないのに

誰にも聞こえないように

 

どうしていつも

こんなに淋しいんだろう

なんでもないふりをして

毎日生活をしているけれど

濃い霧のように

部屋に充満した不安に気がつくと

つらくて、たまらない

 

部屋にはちゃんと

必要なものはあるのに

ちゃんと

あるのに

自分には

なにもない

 

ベランダのドアのガラス越しに

ひどく晴れた空が見えた

今日もなんにもないのに

もったいない気さえした

 

 

 

(c) 2019 あわやまり

 

詩集「記憶クッキー」はこちらから→

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