あわやまりあわやまり

詩

2017/11/03

「池と色作り師と何者か」

私のおかかえの色作り師が
ある時 もう色を作りたくないと言ってきた
なんでも 最近の色が
どうにもこうにも暗い色ばかりで
それに付け加えて作ったところで
誰も見ないと言うのである

 

色作り師の仕事は
発色場の池で発生した色を
自分で集めた色の素から
混ぜ合わせて作って
それを私に送ってくる事
けれども
どんな腕のいい色作り師が作っても
池と全く同じにすることは
出来ないのが現実だった

 

どうしたことかしらと
今度は発色場へ行ってみると
いくつかある小さな池のほとんどに
木で蓋がしてあるのだった
二、三蓋のしていない池の色は
色作り師が言うように
どれも暗く重かった

 

私が送られた色を
なかなか誰かに渡さないから
あるいは
誰も貰ってくれないからか
それともそんなやり取り自体が
意味なく思えてしまったのか
何者かがこうして 蓋をしたのだ

 

他の人はどうなのだろうと
思ったけれどもそれを知るには
やはりその人から貰った色で
推測するより手はないのだった

 

私は池の中やら
その周辺やら
まったく離れた山の方まで
蓋をした者
あるいは
色を変えている何者かを
探しに行った
けれどもそいつは絶対にいるのに
姿を見せはしないのだった

 

池は日に日に変わって
色も変わるし
蓋もあったりなかったり

 

そんなようなので
私は何者かを探すのはやめにして
とにかく色作り師からもらった色を
大切に持って
それを本当にあげたい人だけに
惜しまずあげる事にした

 

何者かはきっと
私にも誰にも
見つかってはいけない
逃げ切れ 何者か

 

 

(c) Mari Awaya 2003
私家版「ビー玉を通った光り」「夜になると、ぽこぽこと」より

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