2020/03/04
「暗い道のひみつ」
・・・・・・・・・・(黄色い家の赤い車・作)
このあいだ僕は見てしまった
ちょうど日が暮れて
色んな家の色んな夕飯のにおいが
優しく皆の帰りを待っている頃
誰も通っていない道の
電信柱がこう
一回腰をかがめて
そうしてから
今度は反対にそって伸びをした
僕はとても驚いて
隣の家の寝ている車に
教えてやろうかと思ったけれども
確かによく考えてみると
電信柱だって四六時中ああやって
まっすぐ立っていなきゃならないのだから
たまに伸びをするくらい
してもいいものだと思った
この話がみんなの暇つぶし程度の噂になるのは
ちっともいい気分がしなくて
僕は誰にも言わないことに心に決めて
じっとしていた
その電信柱はすでに
僕よりもじっとしているようだった
(c)2004 あわやまり
「へその中の話たち -冷たい風が運んだ話-」