あわやまりあわやまり

詩

2019/09/28

「さようならこんにちわ」

僕の仕事は

毎日さようならをすることだ

 

夏になると

ここにはたくさんの人が来る

涼しさと休養

リフレッシュと美味しいものを求めて

 

このホテルはこじんまりしているが

リーズナブルで清潔感があると評判で

夏はほぼ満室だ

 

四泊する人もいれば

一泊で帰る人もいる

家族で来る人もいれば

ひとりで来る人もいる

荷物の多い人もいれば

少ない人もいて

毎年来る人もいれば

初めて来る人もいる

 

今日はどちらに行かれるんですか?

お天気、持つといいですね

そんな短い会話だけれど

その話の中から

その人の表情から

ストーリーを想像する

 

仲直りの旅行かな

ちょっと疲れてひとやすみかな

いつも夏の休暇かな

 

そして

お泊まりが長ければ長いほど

お帰りのときは

さみしい

行ってらっしゃいませ

と笑顔でお辞儀をするけれど

一瞬の喪失感が僕を襲う

 

この夏だけでも

ぼくは何度

行ってらっしゃいませ

つまり

さようなら

を言っただろう

 

それは毎日のなかにある

小さなさようならだ

生きていく中には

もっと大きなさようならもあるだろう

小さな

大きな

さようなら

の繰り返しで

人生は続いていく

 

でも当たり前だけれど

ここでは

誰かが去って行くと

また誰かがやって来る

いらっしゃいませ

つまり

こんにちわ

もしくは

はじめまして

それはさようならと同じくらいある

 

きっと人生も

そうなのではないか

なんて考えながら

霧がかったこの町で

僕は

今日のこんにちわの準備をする

 

 

(c) 2019 あわやまり

2018/01/10

「貝を焼く姉」

姉は「貝のくに」出身です
場所はどこにあるか分らないけれども
我が家で「貝のくに」出身なのは姉だけで
他は皆違うけれども
ついでに言うなら私は
「しいのくに」出身です

 

姉は「貝のくに」出身だけあって
しょっちゅう貝を焼きます
私が生まれてからずっと
そばにくっついては貝を焼いていました
にっこり笑いながら貝を焼く姉と
ちょっと嫌そうな顔の私

 

だけど姉が貝を焼くのは
楽しい時ばかりではなくて
父が病んでいる時
母が悲しんでいる時
私が苦しい時になおのこと
せっせせっせと貝を焼くのです

 

姉は家族や友人のために
貝を焼くのが好きなのです
貝を焼いて、それが
ぱかっぱかっと開くことが
姉の生き甲斐なのだと思います

 

姉は思うに
「貝のくに」出身者の中でも
優秀な方に入ると思います
それはつまり
貝を焼き過ぎということでもありますが
身近にこんなに優秀な「貝のくに」の人がいることを
最近になって私は
うれしく思えるようになりました

 

それと同時に
いままで焼いてくれた数々の貝のこと
本当にありがたく思います

 

あたたかいおせっかいをいつまでも
私たちの隣と
もうひとり増えた大切な人の隣で
どうか焼きつづけてください

 

 

(c) Mari Awaya

2017/11/03

「黒い魚の予言」

電車の窓の外側に
黒っぽい魚がくっついていた

 

人もほとんど周りにいないので
わたしが車内からコンコンと
窓をたたくと

 

一生のうちに見られるかわからない
空の光る輪を見にきたのです
はい、海をずっと泳いで
今日は雨ですので
こうやって移動できます
ただ、間に合うかどうか
まだ南へ進まなくてはいけません
それに、わたしの目で
見られるかどうかが
はい、それが心配です
と魚は言った

 

そうか明日は
皆既日食なんですね
わたしだって
見られるかどうか
と言うと

 

あなたの指にはめている
光る輪は見えますよ
と返すので

 

わたし指輪なんてしてないですよ
なんにも付けていないし
と指を見る
確かに何もないのだ

 

いえ、見えますよ
光っていますよ
ああ、はい
先のことかもしれないです
今見えている星の輝きは
昔消えた星のものだと言いますが
太陽の光り輪のことが近くですので
先のことが見えたのかもしれないです
はい、多分ですけど

 

はあ、そうですか

 

ではここらへんで失礼を
と言って魚は
バンっと窓を蹴って
多摩川に飛び込んで行った

 

どの指に光っているのか
聞くのを忘れた

 

 

(c) Mari Awaya 2010
私家版「今日、隣にいたひと」より

2017/11/03

「一年前のつらいこと」

夕暮れどき
雨戸を閉めようとしたら
天狗が持つような葉っぱの下に
あめあめこぞうが立っていた

 

あ、久しぶりだね
私が話しかけると

 

うん、また来たよ
この前のこと、まだつらい?
と聞く

 

私はふと考えてしまう
この前?
つらいこと?
そうだ
この子と前に会ったときは
つらいことを抱えていて
泣いてばかりいた
でもそれは 一年前のこと
今ではもう つらくない
あの痛みを懐かしく思うくらい

 

もうつらくないよ
時が流れるのって、すごいね
と私が言うと
あめあめこぞうはおかしな顔をして

 

そうかな すごいの?
よくわかんないけど
つらいのがたまっていくより
いいね
と言う

 

そして
またしばらく遊んでね
と言ってから
隣の庭に走って行った

 

きれいに咲いている
水色のあじさいが
わさわさっと揺れた

 

 

(c) Mari Awaya 2008
手製本「あわやまりのひとしずく」より

2017/11/03

「しみ」

カーディガンにこぼした
お好み焼きのソースのしみが
かばんの中でしゃべるので
うるさくてたまらない

 

はやくとって
はやくはやく
はやくとって
はやくはやく

 

私はたまりかねて
カーディガンをとりだして
トイレへ行って
しみをごしごし石鹸で洗った
しみは
ふー、きえていくぅー
きえますよー
と小さいこえで言った
すこし落ち着いて
席にもどって
友達とぺちゃぺちゃしゃべっていたら
私の中に最近できた黒いしみも
だんだん、ちょっとづつ
小さくなっているようだった

 

はやくはやく
消えてほしいとは思うけれど
これはもう
ほかのことに集中するか
時の流れにまかせるか
するしかない
そうしていたら、じきに
この類のしみなんて
消えているのだから

 

ほーら、みてな
消えちゃうんだから

 

 

(c) Mari Awaya 2007
私家版「ぽちぽち、晴れ」より

2017/11/03

「抜け殻部長」

抜け殻部長は今日も電話の取り違えをした

それから

話し掛けてもなかなか反応がなかったり

渡す原稿を間違えたりもした

私がこの会社に来たのは二か月前だけれど

その時すでに抜け殻部長はここにいた

 

今日夕方過ぎ

帰り道が一緒の佐々木さんは

座れない電車の中で

本当にもう、いやになっちゃう

と愚痴をこぼした

抜け殻部長の下で働く人なので

色々と大変なことも多いらしい

私はあまり抜け殻部長のことを知らないので

はい、ふうん、と

うなずいているだけ

 

たばこばっかり吸いにいっちゃって

帰る時もすーっと音を立てずに帰っちゃうし

ほんとう、もう

 

電車がカーブでぎゅうんと揺れる

 

抜け殻部長の中身の方は

今どうしているんですか

私は帰り道で初めての長い言葉を発する

 

しらない

どっかにいるでしょうけど

いいのよどこにいたって

こっちは抜け殻部長がしっかりしてくれれば

 

ぼうっと遠くを見つめて

煙草を吸う抜け殻部長が一瞬よぎる

 

電車が速度を落とす

キイキイキイキイ プシュー

じゃあお疲れさま

佐々木さんは電車を降りて行く

 

はい、お疲れさまでした

 

電車が動いてトンネルに入ると

私は窓に映る自分の顔を

じいっと見た

 

私の抜け殻は

今頃どうしているだろうか

多分抜け殻部長のように

誰かに迷惑をかけたり

怒らせたりしているのかもしれない

 

私は目を、ぎゅうっとつぶった

 

キイキイキイキイ プシュー

背筋を伸ばしてホームへ降りる

今日の風は

少し甘いにおいがした

 

 

(c) Mari Awaya 2005
手製本「帰り道」私家版「今日、隣にいたひと」より

 

詩集「記憶クッキー」はこちらから→

2017/11/03

「池と色作り師と何者か」

私のおかかえの色作り師が
ある時 もう色を作りたくないと言ってきた
なんでも 最近の色が
どうにもこうにも暗い色ばかりで
それに付け加えて作ったところで
誰も見ないと言うのである

 

色作り師の仕事は
発色場の池で発生した色を
自分で集めた色の素から
混ぜ合わせて作って
それを私に送ってくる事
けれども
どんな腕のいい色作り師が作っても
池と全く同じにすることは
出来ないのが現実だった

 

どうしたことかしらと
今度は発色場へ行ってみると
いくつかある小さな池のほとんどに
木で蓋がしてあるのだった
二、三蓋のしていない池の色は
色作り師が言うように
どれも暗く重かった

 

私が送られた色を
なかなか誰かに渡さないから
あるいは
誰も貰ってくれないからか
それともそんなやり取り自体が
意味なく思えてしまったのか
何者かがこうして 蓋をしたのだ

 

他の人はどうなのだろうと
思ったけれどもそれを知るには
やはりその人から貰った色で
推測するより手はないのだった

 

私は池の中やら
その周辺やら
まったく離れた山の方まで
蓋をした者
あるいは
色を変えている何者かを
探しに行った
けれどもそいつは絶対にいるのに
姿を見せはしないのだった

 

池は日に日に変わって
色も変わるし
蓋もあったりなかったり

 

そんなようなので
私は何者かを探すのはやめにして
とにかく色作り師からもらった色を
大切に持って
それを本当にあげたい人だけに
惜しまずあげる事にした

 

何者かはきっと
私にも誰にも
見つかってはいけない
逃げ切れ 何者か

 

 

(c) Mari Awaya 2003
私家版「ビー玉を通った光り」「夜になると、ぽこぽこと」より

2017/11/03

「ぼっち」

わたしもう
ひとりぼっちだ
これからもきっと
ひとりぼっちだ

 

ひとばん、ふたばん
ひとりぼっちで
ふとんかぶって寝ていたら
みっかめの昼に
ちょっとちょっと
とふとんをひっぱるやつがいる
見てみるとちいさな
ほわほわしたいきもの

 

ぼくはぼっちです
ひとりになった人についてきます
だから、まあ
ひとりの人も
ほんとうのひとりではないんです
ぼく、幸か不幸か
人に好かれてしまうんで
だからひとりの人はずっと
ひとりではいられないんです
まあ、信じられなくてもみていてください
そのうちわかります
ひとりの人にはぼくがついてます

 

と言ってわたしの耳から
ぼぉっと入ってきた
おかしなゆめと思って
またふとんかぶったけど
ほんとうだったらいいな
ほんとうにずっとは
ひとりぼっちじゃない気がするな
そう思えてきて
こころすこし明るくなった

 

 

(c) Mari Awaya 2009
「ぼくはぼっちです」あわやまり(たんぽぽ出版)に収録

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